第7回保健システム研究に関する国際シンポジウム(HSR2022)で、サテライトセッション「ウガンダのコロナ禍におけるコロナ対策とその経験:強靭な社会の構築」を開催 —齋藤主任研究員、駒澤研究員ら

2022.12.16

第7回保健システム研究に関する国際シンポジウム(The Seventh Global Symposium on Health Systems Research) (HSR2022)において、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、2022年10月27日に「COVID-19 Response and Experiences for Resilient Society from Uganda (ウガンダのコロナ禍におけるコロナ対策とその経験:強靭な社会の構築)」をテーマとして、サテライトセッションを開催しました。JICA緒方研究所の斎藤聖子主任研究員がチェアを務め、齋藤主任研究員、駒澤牧子研究員、ウガンダの保健省および国際NGOから招聘した2名のリーダーによる4つの発表に続き、全体討論が世界各国からの参加を得て行われました。

サテライトセッションに参加した発表者

このサテライトセッションでは、JICA緒方研究所による研究の成果に基づき、ウガンダの病院におけるコロナ対応とその負の影響、中央政府から地方政府までの一貫したコロナ対応メカニズムが住民の行動に与えた影響について発表しました。続けて、ウガンダの保健システムとコミュニティの統合が、地域医療およびコミュニティにどのように影響したか等について発表が行われました。最後に、これらの発表を受けて、ウガンダをはじめとする中低所得国が、強靭な社会をつくるためにどのように取り組んでいくべきかについて議論を深めました。

ウガンダ政府がコロナ対応で学んだ教訓

まず、ウガンダ保健省の医療サービス局長のチャールズ・オラロ博士から、ウガンダ政府がコロナのパンデミック対応から学んだ教訓について発表がありました。ウガンダ保健省としては、同国における過去のパンデミックにおいて、基礎的保健サービス停止の影響による感染症以外の疾患への影響が大きかった経験から、コロナ対応を行いながらも、質の高い保健サービスの提供を維持することが重要であることが強調されました。

そのため、基礎的保健サービス継続 (Continuity of Essential Health Services: CEHS)プログラムにより、セクター横断的に、中央から末端までをつなぐメカニズムを構築したことが報告されました。そして、そのメカニズムをより強固にするための継続的なアドボカシーと予算確保に加えて、定期的なパフォーマンス・モニタリングと評価が必要であるとの教訓が示されました。また、「走りながら、学ぶこと」、つまり新たなエビデンスに基づいて、柔軟に適応していくことが必要であり、それらのメカニズムが有効に働くためには、地方から中央レベルまで一貫した調整が不可欠であることが提言されました。

中核病院におけるコロナ対応と基礎的保健サービスアクセスへの影響

駒澤研究員は、地域中核病院におけるコロナ対応と基礎的保健サービスアクセスへの影響について、定性的および定量的手法による研究結果を発表しました。

4つの地域中核病院における定性的研究からは、感染予防・制御、サービス提供・利用、医療従事者、病院運営、地域の5つのカテゴリーが重要であることが浮かび上がりました。各カテゴリーでまとめられた項目から、対象の地域中核病院では、医療資源や人材に制約がある中でも、政府の明確な方針、技術指導、人的・物的支援のもと、病院、地方政府と地域社会が連携しながら、セクター横断的にコロナ感染拡大の予防と基礎的保健サービス提供の維持に努めたことが明らかになりました。

また、定量研究では、政府の方針に基づき基礎的保健サービス提供が維持されたものの、厳しい2回のロックダウン時には患者数の減少が見られたこと、つまりコロナ以外の基礎的保健サービスアクセスに影響を与えたことが示されました。

これらの結果から、将来の未知なる感染症への備えとして、厳格な予防・制御対策と必要不可欠な基礎的保健サービスアクセスの確保をどう両立させるかについてはさらなる研究が必要であると結びました。

コミュニティ・エンゲージメントの成果とユニバーサルヘルスカバレッジ達成に向けて

次に、国際NGO AHCEST(African Center for Global Health and Social Transformation)の代表でコロナ国家タスクフォース・コミュニティ・エンゲージメント戦略委員会委員長のフランシス・オマスワ教授から、ウガンダにおけるコロナ禍の村落保健チームを中心としたコミュニティ・エンゲージメントの成果とその成果から得られたユニバーサルヘルスカバレッジ達成のための教訓について示されました。

コミュニティ・エンゲージメントの取り組みとして、コロナ禍でも定期的に開かれたコミュニティ対話セッションが取り上げられ、それによって住民が自身の健康に責任を持つことのできるコミュニティが組織化され、社会的結束が達成された成果が示されました。また自律的なコミュニティの醸成が結果的に医療機関との効果的な連携につながり、地域医療システムとプライマリヘルスケアのパフォーマンスの向上をもたらしたことが示されました。さらに、自律的なコミュニティの形成には、政府と住民をつなぐ村落保健チームの役割が重要であり、チームが十分に機能するために、研修、移動手段、そして、チームメンバーへの報酬が必要であるため、政府による財政的支援の重要性が指摘されました。

最後に、齋藤主任研究員から、ウガンダのコロナ禍におけるコミュニティ・エンゲージメントの状況について、コミュニティへの信頼感が高い農村部と低い都市部の比較分析の結果が示されました。都市部の住民が農村部より多くの物心両面の支援を受けていたとしても、支援に対する満足度は差異がないことがわかりました。さらにいえば、支援が少ない農村部の方が、コミュニティのメンバー同士で助け合ってコロナ禍を乗り越えた感覚が強く、都市部に比べ、心理的ダメージが少なかったことが示されました。これらの結果から、コミュニティ・エンゲージメントが効果的に機能するには、平常時からのコミュニティメンバー間の信頼が鍵であり、密なソーシャルネットワークの構築が重要であることが提言されました。

パンデミックに対応できる強靭な社会に向けて

全体討論では、4つの発表をうけて、パンデミックに対応できる強靭な社会について議論を深めました。ウガンダにおいては保健セクターのみならずマルチセクターでの組織的な取り組みが機能したこと、またモニタリングが重要であることが共有されました。さらに、公的セクターだけでなくコミュニティの参加が不可欠であることが強調され、その自治を促進させ、住民の主体的な活動を引き出すためには、中央政府から地方政府に至るまで一貫した支援を提供することが重要であることが挙げられました。

最後に、オマスワ教授からはこれらの包括的なメカニズムを機能させるためには政治的リーダーシップが不可欠であることが強調されました。JICA緒方研究所は今後も危機における強靭な社会の在り方について研究し発信していくことを約束し、セッションを終了しました。

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