JICA緒方貞子平和開発研究所ナレッジフォーラム「エネルギー危機と気候変動対策-危機をエネルギー転換の好機に変えるには-」開催

2023.08.17

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、2023年6月21日、ナレッジフォーラム「エネルギー危機と気候変動対策―危機をエネルギー転換の好機に変えるには―」をオンラインで開催しました。

冒頭、JICA緒方研究所の峯陽一研究所長が開会あいさつの中で、「一見矛盾するように見えるエネルギー安全保障とカーボンニュートラルはどう両立できるのか」と質問を提示しつつ、登壇者間の議論への期待を示しました。

エネルギー転換のために日本だからこそできること

最初に、エネルギー分野に深い知見を持つ国際大学の橘川武郎教授より基調講演が行われました。G7各国がウクライナ戦争で受けた影響に触れながら、日本のエネルギー自給率が11%と他のG7諸国に比べて低いことを指摘。ロシアの天然ガスなどに依存していた国々が、輸入国を変更する中で、日本が引き続き輸入に依存していてはエネルギー確保に支障が生じることから、今回の危機を契機に日本はエネルギー自給率向上と脱炭素を目指し、再生可能エネルギーにシフトすべきである旨を述べました。再生可能エネルギーへのシフトを図る上での課題として、コストの高さ、地域住民の反対、発電設備の新設に要する時間の3点が橘川教授から挙げられました。

橘川教授は、日本が石炭火力への依存度が依然として高く、国際社会からの批判にさらされていることに触れた上で、一昨年の日本の電源構成に占める石炭火力の割合は29%とドイツと同程度であったが、ドイツは2030年までに石炭火力発電所を全廃すると明言している点が大きく異なることを指摘しました。橘川教授は、日本が石炭にアンモニアを徐々に混ぜて混焼させることでCO2排出を削減する技術を持っていることに触れつつ、日本の石炭火力の廃止時期を明示すべきであると指摘しました。また、石炭火力に依存している開発途上国にも役に立つ形で日本の技術は活かせることに触れ、日本が国際的に果たせる役割を強調しました。

基調講演を行った国際大学の橘川武郎教授

エネルギー転換を促す新たな投資や仕組みをつくっていく

パネルディスカッションでは、パネリストの地球環境戦略研究機関(Institute for Global Environmental Strategies: IGES)の森下麻衣子氏が、エネルギー転換の加速に重要な民間資金の動員という観点に立ち、日本政府が掲げる「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」に示された計画や投資対象には議論の余地が残るとし、「グローバルな投資家など、各ステークホルダーの理解と支持を得ていくために日本政府は何をすべきか」と問いかけました。

パネリストとして参加した地球環境戦略研究機関の森下麻衣子氏

また、同じくパネリストのJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員は、「日本では発電と電力小売が自由化され、自治体や地元企業などが出資する地域新電力が数多く設立された。地域の資本や人材を活用して地域経済に貢献しながら脱炭素を推進する経験やノウハウは、開発途上国における分散型エネルギーシステムの構築に役立つのではないか」と提議しました。

パネリストとして参加したJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員

これらを受けて橘川教授は、国際的に適切な理解が得られていないGX投資の例として、アンモニアや合成液体燃料を挙げ、「アンモニア混焼は石炭火力の延命と見られているが、脱石炭の時期を明示することで、国際的な議論の流れを変えるべき。また、今後は発生したCO2を回収し、資源を循環させて使う社会になっていく。イノベーションで仕組みを考えていくことが必要」と応じました。また、「分散型エネルギーシステムについては、日本では大手の電力会社によって送電線が整備されている一方で、その利用に伴ってコミュニティ内での自由なエネルギーの売買を制約している面がある等、既存の仕組みが整備されているがゆえの課題がある。仕組みがまだ整備されていない開発途上国では、逆に先進的な取り組みを進めやすいので、リープフロッグ(かえる跳び)現象が起こる可能性がある。日本が開発途上国の取組みから学ぶことが出てくるのではないか」との見解を示しました。

さらに、エネルギーのコストベネフィットをどう考えるか、途上国でのグリーンボンド市場の現状、カーボンニュートラルを優先的に考えるのが難しい途上国に開発協力でどう支援していくべきかといった議論が続きました。

参加者からも、電気自動車や再生可能エネルギーのデメリット、若者の環境問題への活動に至るまで多岐にわたる質問が上がり、各パネリストがコメントしました。最後に橘川教授は、「エネルギー問題を議論するとき、各エネルギーに問題があるのは間違いないが、それを踏まえた上で解決策も提示し、建設的に議論していく必要がある」とまとめました。また、モデレーターを務めた峯所長が、「それぞれ違う視点から、エネルギー問題の課題と可能性を立体的に議論できた。エネルギー問題は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の他のゴールにも深く関わってくるので、そのリンクも考えていくべきだろう」と述べ、フォーラムを締めくくりました。

モデレーターを務めたJICA緒方研究所の峯陽一研究所長

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