JICA・日越大学共催の高等教育セミナーでベトナムにおける留学のインパクトを議論

2023.09.12

2023年8月8日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の研究プロジェクト「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究―アセアンの主要大学の教員の海外留学経験をもとに― 」の一環で、JICAと日越大学(Vietnam Japan University)は、国際セミナー「Impacts of Study Abroad on Higher Education Development」を日越大学ミーディンキャンパスで共催しました。

セミナーでは留学がベトナムにもたらすインパクトなどについて議論(写真提供:日越大学)

本研究プロジェクトはアセアンのトップ大学(4ヵ国10大学)と協力して2018年より実施しているもので、2019 年から 2022 年にかけてこれらの10大学の全教員を対象に質問紙調査を、また一部の教員や高等教育行政官にインタビュー調査を行いました。ベトナムでは、ベトナム国家大学ハノイ校(Vietnam National University: VNU)とハノイ工科大学(Hanoi University of Science and Technology: HUST)が調査の対象となりました。本セミナーでは、3,300人にのぼる教員のデータの分析結果から得られた重要な研究成果をベトナムの高等教育関係者と共有し、意見交換が行われました。

本研究プロジェクトのリーダーであるJICA緒方研究所の萱島信子 シニア・リサーチ・アドバイザーの発表では、いずれの国においても、教員が海外の大学へ留学することによって、帰国後の活動(教育・研究・社会貢献・大学運営)にポジティブなインパクトを及ぼしていることが報告されました。また、留学のインパクトは、国内的な教育研究活動よりも国際的な教育研究活動において著しいことや、対象国の高等教育の発展にともない、留学のインパクトの一部が小さくなることも明らかになりました。さらに、ベトナムの特徴として、留学による外国語の習得が外国語での授業の実施や外国語での論文執筆などに高いインパクトを生んでいることが確認されました。また、留学先国としての日本は、留学後の指導教員との関係維持や学術協力の実施につながっている点で特色があることが分かりました。またこれらの分析結果から、「留学の意義は、高等教育の発展にともない、『先進国からの知識や技術移転』から『国際的な学術ネットワーク形成の入口』へと変化している。アセアン域内での学術交流・人的交流が増加しており、送り出し国・受け入れ国の両面を有するベトナムの役割が一層重要になると思われる」と指摘しました。

発表したJICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー(写真提供:日越大学)

JICA専門家で日越大学の講師を務めるJung Hyun Jasmine Ryu氏はベトナムの事例研究を発表しました。Ryu氏はベトナムにおいても教育、研究、社会貢献に対して、留学がポジティブなインパクトを及ぼしており、ベトナムの高等教育の発展のためには教員の留学が重要であると主張しました。一方で、留学から帰国した教員がむしろ自国の大学の環境に戸惑うことやネットワークを喪失したといった負の側面があることも指摘しました。

さらに、研究チームの主要メンバーであるとともに、日本政府の「戦略的な留学生交流の推進に関する検討会」委員でもあったJICA緒方研究所の黒田一雄 客員研究員(早稲田大学教授)から、両国間の留学生交流の現状や日本の新たな留学生政策の方向性などが紹介されました。特に、近年ベトナムから日本への留学生が急速に増加し、滞日外国人留学生の約25%(2019年時点)を占めていることや、今後ともアセアンの高等教育の成長や「自由で開かれたインド太平洋 (Free and Open Indo-Pacific) 」実現の観点から、留学生交流を一層推進する必要性が議論されました。

質疑応答では、高等教育開発理論への本研究プロジェクトの貢献、ベトナム政府や各大学の教員育成プログラムへの活用、留学生受け入れによるベトナムの高等教育の国際化の推進などについて、幅広い議論が交わされました。

今後、本研究プロジェクトでは詳細な分析を進め、研究成果を書籍にまとめていく予定です。

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