インドネシア人の海外労働移動に関する意思決定プロセスとは?米国での国際アカルチュレーション学術会議でシンポジウムを開催

2023.10.23

2023年7月27日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の研究プロジェクト「海外労働希望者の国際移動経路と経路選択メカニズムに関する研究 」の一環として、米国での国際アカルチュレーション学術会議でシンポジウム「意思決定:インドネシア人労働希望者のアスピレーションとケイパビリティー」を開催しました。

本研究プロジェクトは、世界的にも大きな流れになっている海外への労働力移動をとりあげ、国際労働移動希望者が安全に移動できるルートの強化・拡大のために果たすべき国際協力の在り方を検討するため、彼らの経路選択メカニズムの解明を目的としています。本シンポジウムでは、同研究プロジェクトが2022年度にインドネシアで政府、送出機関、訓練所、国際労働移動希望者を対象として実施した質的研究の成果を参加者と共有し、討論しました。

まず、インドネシアのNational Research and Innovation Agency(BRIN)のFirman Budianto 研究員は、国際移動の透明性を目指したインドネシア政府による施策が負の影響をもたらしていることを示しました。第一に、政府が義務化した送出データベースへの登録が、登録要項が複雑で登録に手間がかかり、送出までの時間が更に延びていること、第二に、「海外就労に必要なスキル訓練」と「送出の手続き」の機能を同一組織が担うことによって不正な経費計上をしやすくする環境を改善するため、訓練機能(訓練所)と送出機能(送出機関)の分離を政府が規定しましたが、両機関による経費水増し計上により、結果的に経費の水増し計上が促進していることを示しました。

発表したインドネシアのNational Research and Innovation Agency(BRIN)のFirman Budianto 研究員

次に、桜美林大学の浅井亜紀子教授は、国際労働移動希望者に実施したインタビューをもとに、希望者の社会的属性やコミュニティーにおける国際労働移動に関する価値観が国際労働移動へのアスピレーションとケイパビリティー、そして経路選択に与える影響について示しました。

発表した桜美林大学の浅井亜紀子教授

JICA緒方研究所の齋藤聖子 主任研究員は、送出プロセスに関わる関係者が国際労働移動の実現にこだわるあまり、希望者が真に就労したい国ではなく、ある程度のケイパビリティーで容易に就労が実現する国に希望者を誘導してしまう現象をとりあげ、必ずしも希望者にとっての最適な国選択とはなっていない可能性を示唆しました。そして最後に、国際労働移動の実現の可否のみを説明対象としたH Hein de Haas のアスピレーション・ケイパビリティーモデルの限界を示し、就労国の選択までに適用範囲を拡げた応用モデルの提案を行いました。

発表したJICA緒方研究所の齋藤聖子主任研究員

指定討論者のCity University of New YorkのNann Sussman 名誉教授からは、国際機関の問題点として、移民についてのポリシーは示すものの、実際にどのような社会統合政策をとるべきかについては具体的に示されない点が挙げられました。母国における価値観が海外移動後の異文化適応の可否に大きな影響を及ぼすとして、今後はこの有意義な結果に基づいて、送出前の母国での効果的なオリエンテーションプログラムを具体的に提案し、さらに希望者にそのプログラムを適用する試みが必要だとして、JICAへの期待を示しました。

フロアからは、研究の枠組みが国際移動に関する社会的構造の問題だけでなく、希望者本人の視点での意思決定メカニズムに着目した点は大変に興味深く、意思決定への影響要因として希望者の人間関係のほか、経済、教育、宗教などが抽出されたことも興味深いといった声があがったほか、因子間の関係についてのさらなる分析への期待が示され、盛況のうちに閉会しました。

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