プロジェクト・ヒストリー『ペルーでの愉快な、でも少し壮絶なスポーツ協力―国際協力をスポーツで』出版記念セミナー開催

2023.12.05

2023年10月27日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、「プロジェクト・ヒストリー 」シリーズ第36弾『ペルーでの愉快な、でも少し壮絶なスポーツ協力ー国際協力をスポーツで 』の出版記念セミナーを開催しました。同書では、陸上競技の発展に向け、1980年代に青年海外協力隊員としてペルーで活動した綿谷章氏による試行錯誤の日々がつづられています。

ペルーでの10年、そして帰国後の波瀾万丈のストーリー

開会にあたり、JICA緒方研究所の宮原千絵副所長があいさつし、「綿谷氏は63ものペルー新記録の樹立を支え、教え子はオリンピック出場を成し遂げたが、その道は決して平坦ではなかった。そんな波瀾万丈のストーリーを共有し、ボランティアによるスポーツ協力のインパクトを振り返るとともに、今後の展望や課題について議論したい」と述べました。

開会のあいさつを述べたJICA緒方研究所の宮原千絵副所長

続いて綿谷氏が、国際協力とスポーツをキーワードに、地方巡回指導による陸上競技の普及活動、ナショナルチーム編成のための地方と首都の融合、全員で目指すオリンピック、帰国後の日本での活動という4つで構成された同書を紹介。「個人競技と思われがちな陸上競技だが、実は練習する仲間、指導者、選手の家族などが支え合っている。たとえオリンピックに参加する選手は一人でも、かかわった全員が参加したことになるから、“全員で目指すオリンピック”を掲げて活動した」と語りました。また、トレーニングの目的は青少年が心身ともに成長を遂げて自立することであり、犯罪が多かった1980年代のペルーで悪の道に踏み込まないよう自分を律する心を身につけてほしかったこと、また、教え子たちには、協力隊員としての派遣期間だけでなく、生涯共に歩もうと伝え、奉仕の心、情熱、愛を持って活動してきたことなどを紹介し、自身の活動を振り返りました。

スポーツと国際協力をキーワードに発表した著者の綿谷章氏

ボランティア研究から見えてきたものとJICAの取り組み

パネルディスカッションでは、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成 」にも携わる早稲田大学の大貫真友子講師が「ボランティアが何をもたらしたか」をテーマに発表しました。まず、帰国後10年を経た元協力隊員がどの分野でどの程度ボランティア活動をしているか、一般市民と比較しながら分析した結果、ボランティアへの参加率は一般市民の27%に対して元隊員は80%で、その分野は国際協力、スポーツ・文化・芸術・学術、健康・医療サービスが多いことを紹介。さらに、その活動を動機づける個人要因として価値観に着目したところ、「新しいアイデアを考えつき創造的、楽しい時間を過ごす、刺激のある生活を大切にするといった『変化への開放性』という価値観が10年後のボランティア活動と関連していることが分かった。綿谷氏も、安定した職があったにもかかわらずペルーに戻っている。それも、リスクをとって道を切り開いていくといった『変化への開放性』と関連しているのではないか」と見解を述べました。

帰国ボランティアについての研究成果を発表した早稲田大学の大貫真友子講師

続いてJICA青年海外協力隊事務局の勝又晋専任参事が、「スポーツと開発 」は2021年にJICAが発表した20のグローバルアジェンダ(課題別事業戦略) の一つに位置づけられ、全ての人々がスポーツを楽しめる平和な世界の実現を目指していること、そして、スポーツそのものの発展を目指す「スポーツの開発」と、スポーツを手段として健康増進やコミュニティー形成などの課題に取り組む「スポーツを通じた開発」の観点から協力を展開していると説明。海外協力隊事業では、1965年以降、約5,000人の体育・スポーツ隊員の派遣実績があることも紹介しました。

JICAによるスポーツと開発の取り組みを紹介したJICA青年海外協力隊事務局の勝又晋専任参事

スポーツや国際協力の枠組みを超えて

九州大学の吉田憲特任教授がモデレーターを務め、「これからのスポーツと開発」と題した座談会では、協力隊事業が抱える課題やその対策、スポーツを楽しむ意義などについて議論しました。大貫氏は、「ボランティア精神というと利他的という面が強調される傾向があるが、協力隊員には『変化への開放性』にもつながる『楽しむ』という価値観が根底にあるのではないか」と述べました。綿谷氏は「スポーツは生活に必要なものだ、という受け止め方をされることで、スポーツと国際協力ががっちりと結びつき、両輪となっていくのではないか」とコメント。勝又氏は「スポーツは共に楽しめることに加え、協力隊のキーワードである『共創』『Think Together, Work Together』という側面がより顕著に表れやすいと考えている。その特性も生かしながら、協力を続けていきたい」と語りました。

幅広いテーマで議論が行われた座談会

最後に、吉田特任教授が「綿谷氏が掲げた『自分たちの地域に誇りや愛着をもとう、地域のまちづくりにかかわる人材になろう、地域の価値をみんなで共有しよう、みんなと一緒に未来を切り開く』という指導理念とその活動は、スポーツの枠組みを超え、国際協力、あるいは社会生活の範たるもの」と述べ、座談会を締めくくりました。

座談会のモデレーターを務めた九州大学の吉田憲特任教授

参加者からは「ボランティア精神を育む上で大切にしていることは?」といった多数の質問が寄せられました。セミナーの最後には、綿谷氏からの「失敗するために挑戦する。それが人生の糧になっていく」という言葉をはじめとして、パネリスト全員が協力隊を目指す人へのメッセージを述べ、閉会となりました。

関連動画

【ペルー・スポーツ】プロジェクト・ヒストリー『ペルーでの愉快な、でも少し壮絶なスポーツ協力―国際協力をスポーツで』【JICA緒方研究所:セミナー】

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