日本公衆衛生学会総会で牧本主席研究員らが2024年開催の保健政策・システム研究国際シンポジウムをアピール

2024.01.10

2024年11月に、JICAと長崎大学が共同ホストを務める保健政策・システム研究の国際シンポジウムThe 8th Global Symposium on Health Systems Research 2024(HSR2024)が長崎市で開催されます。それに先立ち、2023年10月31日から行われた第82回日本公衆衛生学会総会にて、「日本から発信し、世界から学ぼうー世界最大の保健政策・システムの国際シンポジウムがやってくる!2024長崎」と題する自由集会が開催され、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の牧本小枝 主席研究員と萩原明子JICA 国際協力専門員が参加しました。

保健政策・システム研究が目指すものとは

冒頭、牧本主席研究員がこの集会の趣旨や、保健政策・システム研究(Health Policy and Systems Research: HPSR)について説明。「HPSRは、保健システムの6つの構成要素である①サービス提供、②情報とエビデンス、③医療機器・医薬品と技術、④保健医療人材、⑤保健財政、⑥リーダーシップとガバナンスがどのように機能し、改善すれば、個人と集団の健康を高められるか、科学的に理解し、エビデンスを創出するための学際的な研究分野。政策やシステム、組織、プログラムに焦点を当て、政策決定者や保健行政官、地域住民といった意思決定者に対し、役立つエビデンスや解決策を提示することを目指す行動志向の研究である」と述べました。そして、2年ごとに開催されるHSRには100ヵ国以上から約1,500人の研究者・実務者が集い、保健政策・システム研究の成果や活動について知見の共有や議論を行うため、日本の保健政策やシステムや取り組みを世界に発信する絶好の機会になるとして、日本公衆衛生学会員の参加を呼びかけました。

保健政策・システム研究について説明したJICA緒方研究所の牧本小枝主席研究員(左)

続いて、国立保健医療科学院の曽根智史院長が「政策に資する研究について」と題し、国立保健医療科学院の概要のほか、地方自治体職員の人材育成や調査研究などの活動を紹介。政策に資する研究としては、文献調査や小規模調査などにより、まだ顕在化していない課題を見つけるための研究、実態調査により課題の実態を把握するための研究、海外調査やステークホルダーへのヒアリングなどにより政策オプションを形成するための研究、疫学調査や臨床試験など政策決定に資するエビデンスを創出するための研究などがあるとし、それぞれの具体例を挙げながら解説しました。

政策に資する研究について発表した国立保健医療科学院の曽根智史院長

HSR2024の共同ホストを務める長崎大学大学院の相賀裕嗣教授は、「HSR2024とは?~日本の保健医療制度の発信の好機として~」と題して発表。相賀教授は、「世界で最も効率的に長寿を達成した日本の保健医療制度は、世界から注目されているものの、残念ながらその中身を周知できていないため、この機会に積極的に情報発信したい」と抱負を述べました。HSR2024は、「公正で持続可能な保健システム:人々を中心として地球を守る」をテーマに掲げており、気候変動に対処し、環境的視点を持ったプラネタリーヘルスのための保健システムの強化、平時と紛争下における保健システムの公正性、包括性や一体感の推進といったサブテーマで議論が行われることを紹介しました。

さまざまな視点からの知見を共有

一橋大学の本田文子教授は、「HPSRにおける保健医療財政をテーマとした研究」と題し、HPSRは、社会制度や文化的・政治的背景、ステークホルダーとの関連性などに配慮しながら課題解決に向けた学際的なアプローチやシステム思考を特徴とすると改めて述べた上で、ジンバブエ、マダガスカル、南アフリカで取り組んでいる自身の研究を具体例として紹介。新しい医療技術として性感染症の迅速簡易検査キットを開発し、それだけにとどまらず、費用対効果や患者側の選好なども含め、それをどうサービスとして運用していけるか、学際的にさまざまな領域の研究者と共同研究を進めていることを説明しました。

JICAの萩原明子国際協力専門員は、「第7回ヘルスシステムリサーチ(HSR)グローバルシンポジウム2022に参加して」と題し、JICAが参加したサテライトセッション「ガーナ母子新生児継続ケアの推進ーエビデンスに基づく政策決定とクライエント中心のケアの推進」の経験を報告しました。2012~2016年にガーナ政府、東京大学、JICAがガーナでの母子の健康改善を目指した「EMBRACE(Ensure Mothers and Babies’ Regular Access to care)実施研究 」は、母子継続ケアを促進する環境整備や、継続ケアカードを用いて継続ケアの重要性を母親に分かりやすい言葉で伝えることで、受診率が大きく上昇し、妊産婦死亡率の減少にも寄与したという成果を紹介。それを踏まえて母子手帳の開発と全国展開へと発展した流れを示し、JICAが果たした役割を説明しました。萩原専門員は、「HSRは、世界の関係者と直接の意見交換を通じ、ニーズを発掘し、政策決定層に研究への投資をアピールできる貴重な機会。日本では研究、エビデンス、政策立案、効果測定のサイクルが回っているが、中低所得国では研究と保健政策が合致しないことも多いため、日本の産官学による研究成果を発表することに意義がある」とも語りました。

ガーナでのEMBRACE実施研究について紹介したJICAの萩原明子国際協力専門員

過去7回開催されたHSRのうち、WHO、JICA、長崎大学の立場から6回参加した経験を持つ相賀教授は、HSRでは実務(政治家・行政官・開発協力機関)とアカデミア(研究者・科学者)とのギャップを実感しつつも、討議内容が厳しい競争を経て絞り込まれ、世界の保健政策・システム分野の第一人者が一堂に会することから上質なエビデンスと上質なネットワークが存在すると述べました。さらに、「本当のスーパースターは日本にいるのではないか」と、日本の保健政策・システムが世界に紹介されることに期待を寄せました。

これまでHSRに参加した経験などを紹介した長崎大学大学院の相賀裕嗣教授

参加者との質疑応答の後、牧本主席研究員と相賀教授からHSR2024の募集要項などについての紹介があり、閉会となりました。

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