大野シニア・リサーチ・アドバイザーらが翻訳的適応アプローチについて英国の大学・シンクタンク関係者らと議論

2024.02.15

2023年11月27~31日に、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析 」の研究チームが英国を訪問し、研究成果の発信や関連分野の研究者とのネットワーキングを行いました。参加者は、JICA緒方研究所の大野泉 シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学 教授)、神公明氏(JICA南アフリカ共和国QPI(カイゼン)プロジェクトチーフアドバイザー)、天津邦明氏(JICA英国首席駐在員)、JICA緒方研究所の金潤定 リサーチ・オフィサーです。

書籍紹介セミナーで翻訳的適応の概念を紹介

11月27日に訪れたロンドン大学東洋アフリカ学院(University of London, The School of Oriental and African Studies: SOAS)では、Jonathan Di John教授らが2023年10月に立ち上げたDevelopment Leadership Dialogueの第1回セミナーとして、大野シニア・リサーチ・アドバイザーが「Policy Learning for Industrial Development and the Role of Development Cooperation: A Perspective from Translative Adaptation」をテーマに発表。2023年10月に刊行された同研究プロジェクトの成果である書籍『Introducing Foreign Models for Development: Japanese Experience and Cooperation in the Age of New Technology 』(Springer)の概要や翻訳的適応の概念を紹介するとともに、工業化のための政策学習の重要性、開発協力を通じて翻訳的適応を促す試みとして開発途上国との政策対話やアフリカへのカイゼン支援の事例を紹介しました。

ロンドン大学東洋アフリカ学院で開催されたDevelopment Leadership Dialogue第1回セミナー

11月30日に訪れた海外開発研究所(Overseas Development Institute: ODI)では、国際経済開発グループ長のDirk William te Verde氏のモデレーションで「Translative Adaptation and AfCFTA Roundtable」が開催され、意見交換を行いました。大野シニア・リサーチ・アドバイザーによる書籍概要の紹介に続き、神氏が「Strengthening Firm Capabilities in the Context of AfCFTA Implementation: The Role of Kaizen」をテーマに発表しました。神氏は、「カイゼンは翻訳的適応から生まれてきた結果であるため、その中に翻訳的適応を実践する参加型手段が内在している」と述べました。そして、アフリカ大陸自由貿易圏(African Continental Free Trade Area: AfCFTA)下における企業能力強化の重要性を指摘した上で、アフリカ諸国におけるJICAのカイゼン支援やアフリカカイゼンイニシアティブについて説明しました。

訪問した海外開発研究所で研究プロジェクトの成果である書籍を贈呈

これらのセミナーの質疑応答では、翻訳的適応という文化人類学からの概念を開発の文脈でとらえ、学習(learning)の視点で考察する取り組みへの関心が示されたほか、知識移転においては「青写真」や「ベストプラクティス」の共有でなく「実験的」なアプローチをとることの有用性が示唆されました。また、「東アジアで学習の連鎖が生まれたことはAfCFTA実施の文脈における学習の波及可能性という観点からも興味深い」とのコメントも寄せられました。

さらに、政策対話を通じた学習プロセスや方法を実践する際に考慮すべきこととして、ベンチマーク国の選び方、産業の比較優位の考え方、パートナー国を選ぶ基準などについての質問や、翻訳的適応の概念をどのようにアフリカへの開発協力に生かしていくかといった実践的な問題提起もあり、今後の取り組みを考える上で貴重な示唆が得られました。

国際開発政策や研究の動向について意見交換

加えて、研究チームは、変化する世界における国際開発研究の動向について、サセックス大学開発学研究所(Institute of Development Studies: IDS)やグローバル開発センター(Center for Global Development: CGD Europe)の研究者と意見交換しました。また、リーズ大学で日本近代史や日本の開発協力を研究している Kweku Ampiah教授を訪問し、同教授の主宰で大野シニア・リサーチ・アドバイザーが「Japanese Development Cooperation in a Changing World」をテーマに講義を行いました。

リーズ大学で講義を行うJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー

外務・英連邦・開発省(Foreign, Commonwealth & Development Office: FCDO)の職員との面談では、英国政府が2023年11月28日に14年ぶりに発表した国際開発白書について情報収集し、同白書が強調する「locally-led development」という概念と翻訳的適応の親和性を含め、意見交換するタイムリーな機会にもなりました。

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