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レジリエントで生産的な社会に向けたスマートな保健投資を:カンボジアの経験を共有するセミナー開催

2023.04.26

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)のパンデミックの間、各国政府は、社会、健康、経済への悪影響を軽減する責任を担いました。カンボジアは政府一体となってパンデミックの影響に対処するためのマスタープランを作成し、JICAも政策提言や財政支援を通じて関与しました。

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、パンデミック対応の中心的な役割を担ったカンボジア政府の代表者らを招き、この取り組みを評価するウェビナーを2023年2月15日に開催しました。

パンデミックに対応したカンボジア政府の代表者らも参加

まず、JICA緒方研究所の山中晋一顧問が開会のあいさつを述べ、レジリエントで持続可能な保健システムを実現するため、これまでの歩みを振り返り、今後の課題を特定することの重要性を指摘しました。

健康がリスクにさらされているときは、全てがリスクにさらされている

最初の発表者であるJICAの戸邉誠国際協力専門員(保健)は、レジリエントなユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を目指す上で重要な保健システムへの投資について説明。コロナのパンデミックにより、健康がリスクにさらされているときは、全てがリスクにさらされていることが明らかになったとし、いまや保健分野の課題は医療の専門家や関係省庁に任せきりにできるものではなく、コミュニティー自身の取り組みも求められていると述べました。戸邊専門員は、国連持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)のゴール3「すべての人に健康と福祉を」を達成することで、他のゴールの達成が後押しされると強調。さらに、1ドルの保健分野への投資は9〜20ドルのリターンを生むという研究を紹介し、保健分野への投資には大きな見返りがあるものの、政府予算に必ずしも反映されていないことを指摘しました。

JICAの戸邉誠国際協力専門員(保健)

JICAによるコロナ対応支援で起きたプラスの波及効果とは

次に、JICA緒方研究所の牧本小枝主席研究員が登壇し、JICAがコロナのパンデミック中に実施した開発途上国向け財政支援「新型コロナウイルス感染症危機対応緊急支援借款 」の詳細を発表しました。パンデミック初期に開始されたこの協力では、(1)コロナ関連の保健サービスの提供、(2)保健システム全般の強化、(3)社会的保護、(4)ビジネス・雇用支援、(5)公共財政管理への支援、(6)行政機能の向上という6つの領域が支援されました。その例として、社会的保護の領域では全国規模での貧困層の登録簿の作成、また、ビジネス・雇用支援の領域では雇用維持に向けた補助金制度やグリーン電力向け官民連携(Public Private Partnerships: PPP)の関連法の施行を挙げました。牧本主席研究員は、この協力の有効性について、コロナ関連の保健サービスと保健システム全体の両方で改善があったという暫定調査結果を紹介しつつ、保健分野だけではなく、社会的保護やビジネス・雇用支援、公共財政管理、行政機能といった持続可能かつ包摂的な成長を目指す分野の政策立案・施行にも寄与したと説明しました。

JICA緒方研究所の牧本小枝主席研究員

成功例としてのカンボジアからの学び

続いて、カンボジア保健省のオー・バンディーン長官が、コロナのパンデミックから得た同国の経験と教訓について発表しました。まず、感染抑制、ワクチン接種の進捗、移動制限の緩和の観点から120ヵ国・地域以上を評価した「日経コロナ回復指数」について触れ、カンボジアは2021年6月時点では100位に低迷していたものの、2021年後半を中心にワクチン接種を広く展開した結果、2022年1月に2位へと順位を上げて以降、上位を維持していることを紹介。その上でバンディーン長官は同国のパンデミック対策を振り返り、フェーズ1(追跡、行動制限、越境制限)からフェーズ2(ロックダウン、隔離、ワクチン接種)、フェーズ3(ウイルスと共存するニューノーマルへの移行、ワクチンの追加接種)へと推移し、同国のワクチン接種完了者は総人口約1,700万人のうち1,000万人に到達したことを示しました。さらに、カンボジア政府はWHOやJICAのようなアクターと連携して極めて迅速にパンデミックに対応し、感染を封じ込める能力を構築できたと述べ、プライマリー・ヘルス・ケアや人材育成をはじめとする保健システム強化への投資を拡大し、保健政策と経済政策を両輪として進めるべきだと強調しました。また、新たな感染症の流行や非感染性疾患、高齢化といった同国が抱える将来的な保健分野の課題に備える必要性も取り上げました。

カンボジア保健省のオー・バンディーン長官

回復、改革、レジリエンスという統合的アプローチで未来へ

次に、カンボジア経済財務省のフオット・プム副長官が同国経済の実績と見通し、パンデミック中の財政状況、政策方針の優先順位付け、UHCの実現に向けた動きについて発表しました。カンボジアは2021年以降、迅速に経済活動を再開させ、現在の経済成長率は年率5.6%に達しているとし、こうした回復は公共セクターのレジリエンス向上と改革、さらには経済、財政、社会資本と人的資本、環境・気候という各分野のレジリエンス向上の政策に主眼を置いた政府の統合的アプローチによって達成されたと説明。また、コロナへの緊急対応を通じた経済財務省と保健省の密接なコミュニケーションにより、効果的な保健投資をはじめとする、今後の協力に向けた盤石な基礎が築かれたこと、また、コロナ対策や社会の安定維持、コミュニティー支援のための大規模な介入を進めていく上で、JICAなどの開発パートナーが非常に重要な役割を果たしたことを示しました。

カンボジア経済財政省のフオット・プム副長官

続くディスカッションでは、一橋大学経済学研究科の佐藤主光教授が公共財政の課題とその持続可能性をどう確保するかという論点を挙げ、その解決策として保険や税金といった手段はあるものの、開発途上国ではインフォーマル・セクターが国民経済計算に含まれないことが多いため、課税ベースをどう拡大するかという課題に直面していることを指摘しました。

一橋大学経済学研究科の佐藤主光教授

また、カンボジア保健省でJICAアドバイザーを務める野崎威功真氏は、パンデミックに効果的に対応してきたカンボジアの先進性に言及し、同国は世界保健機関(WHO)がガイダンスを発表するより前に、コロナ対応として低年齢向けへのワクチン接種を進めるといった大胆な決断を下していたと指摘。それに対してバンディーン長官は、カンボジアは自国でのコロナワクチン接種について調査を行って有効性を確かめたと応じ、エビデンスに基づいた政策決定の重要性を示唆しました。

カンボジア保健省でJICAアドバイザーを務める野崎威功真氏

その後も、効果的な公的な医療システムや人材育成、コミュニティー参加などについて、活発な議論が交わされました。

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