エジプト・日本科学技術大学を核にアフリカの高等教育ネットワーク形成を目指してープロジェクト・ヒストリー出版記念セミナー開催

2023.06.12

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)とJICA人間開発部は、JICAの事業の軌跡と成果を分析してまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第30弾『科学技術大学をエジプトにー砂漠の地で始まる大学造り、紡がれる人々の「物語」』の刊行を記念し、セミナー「E-JUSTを中核としたAfrica-Japan University Network形成へ向けて」を2023年5月16日に共催しました。本書では、エジプト・日本科学技術大学(Egypt-Japan University of Science and Technology: E-JUST)の設立と発展の歴史がつづられています。

オンラインと会場での参加者とともに活発な議論が行われた

冒頭、JICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザーが開会のあいさつに立ち、本書の著者であり、現在E-JUSTプロジェクトフェーズ3でチーフアドバイザーを務める岡野貴誠専門家を紹介。「将来を見据えたビジョンの共有が重要という岡野氏の姿勢は、技術協力プロジェクトの限られた時間内での目標や成果にとらわれがちな私たちに大きな示唆を与えてくれる」と述べました。

苦難を乗り越え発展を遂げたE-JUST

続いて、岡野専門家が書籍の概要を紹介し、E-JUSTの歴史を構想期、設立期、成長期、混乱期、再生期、拡大期という6つに分けて振り返りました。日本型の工学教育を行う大学をゼロから設立するという大きな夢の実現を目指し、始まった技術協力プロジェクトには日本の12の支援大学が参加。九州大学、早稲田大学、東京工業大学、京都大学がそれぞれ担当する専攻分野を支援する連携体制のもと、各大学からの教員派遣、カリキュラムの開発、エジプト初の学長の国際公募などが進んでいったことを説明しました。

本書の著者で現在E-JUSTプロジェクトでチーフアドバイザーを務める岡野貴誠専門家

岡野専門家は、「キャンパスの建設がなかなか始まらなかったり、E-JUSTは国立大学でも私立大学でもないために準拠した法律がなかったり、アラブの春で危機的な状況に陥ったりと、さまざまな苦難に直面した。それでも、エジプト、日本の関係者の協働体制の再構築と一体的な取り組みを通じて、E-JUST法の制定、キャンパス建設の開始、学部の開設といった成果を徐々にあげていくことができた」と説明し、現在のE-JUSTの紹介動画を放映。充実した設備やラボで研究する学生たちの姿が映し出されると、現在は学部生・大学院生をあわせて3,300人の学生数を誇り、アフリカ各国からの約130人の留学生も学ぶ総合大学に成長したE-JUSTの変貌ぶりに驚きの声があがりました。その上で岡野専門家は、規模が大きくなる中での教育の質や日本型工学教育の実践の確保、アフリカ留学生が増える一方でのエジプト人学生数の減少への対応、アフリカに戻った留学生のネットワーク構築など、E-JUSTが抱える新たな課題を提示しました。

アフリカ、日本、そして世界をつなぐ拠点へ

続くパネルディスカッションでは、E-JUSTの設立と実践に深く関わってきた4人を迎え、さまざまな視点から議論しました。

まず、モデレーターを務めたJICA人間開発部の上田大輔次長が「日本・アフリカ拠点大学ネットワーク構想の狙いと展望」と題して発表。アフリカの開発課題の解決に向け、JICAが設立から支援しているE-JUSTとケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)の2大学をハブとし、アフリカと日本の大学・研究機関とのネットワーク構築を目指していることを説明しました。「アフリカ域内での留学や日本への留学、人的交流や共同研究の実施などを通じた連携の強化は、アフリカの高等教育のみならず、日本の大学の競争力や日本の科学技術力の強化にもつながる」と述べ、国際頭脳循環の重要性を強調しました。

モデレーターを務めたJICA人間開発部の上田大輔次長

2014年からE-JUSTの第一副学長も務める東京工業大学の鈴木正昭名誉教授は、E-JUSTの留学生事業とアフリカ連携について発表。E-JUSTでは、アフリカの科学技術イノベーション人材育成を目的にJICAが支援する「TICAD7アフリカ奨学金」などを利用して多くのアフリカ各国からの留学生が修士・博士課程で学んでおり、その制度の周知や留学生の獲得に奔走してきたことを振り返りました。「アフリカでのE-JUSTの認知度はかなり高くなってきた。今後E-JUSTはアフリカ域内の大学や日本へのゲートウェイとしての役割を果たし得るだろう」とし、フランス語圏のアフリカ諸国からの留学生の確保を課題として挙げました。

E-JUSTの第一副学長も務める東京工業大学の鈴木正昭名誉教授

2019年からE-JUSTに派遣され、電子通信工学専攻などの研究指導にあたる九州大学の浅野種正特任教授は、E-JUSTと九州大学が実施中の共同研究「マイクロ波を利用した土壌消毒」の事例を紹介。「土壌の消毒とは、土の中にいる線虫という害虫を電磁波で駆除するもの。農業生産性の向上につながるという大きなスケール感がある研究なので、E-JUSTとJKUATで連携した研究を構想している。将来的には各地域の性状に合わせた技術開発が必要になるだろう」と説明しました。

E-JUSTと共同研究を実施している九州大学の浅野種正特任教授

最後に岡野専門家が再び登壇し、世界中で実施しているJICAの高等教育プロジェクト間の連携を目指す取り組みを紹介しました。各プロジェクトの専門家の間には情報共有をする仕組みがないという問題意識のもと、専門家や帰任した専門家、JICAの担当者らが情報交換できる場として2021年に立ち上げたのがオンライン専門家勉強会。12ヵ国での14のプロジェクトやJICAのメンバーが参加し、産学連携、日本の大学との連携、大学の事務組織強化など、多様なテーマで知見の共有や意見交換をしていることを紹介しました。

質疑応答では、アフリカの優秀な研究者を日本に呼ぶための具体策、卒業生や各国に帰国した留学生のネットワーク化やフォローアップの必要性、アフリカの教育現場における日本と諸外国のプレゼンス、将来の支援の出口戦略についてなど、活発な議論が展開されました。

関連動画

【エジプト・教育】E-JUSTを中核としたAfrica-Japan University Network形成へ向けて【JICA緒方研究所:セミナー】

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