『科学技術大学をエジプトに—砂漠の地で始まる大学造り、紡がれる人々の「物語」』

  • #プロジェクト・ヒストリー

『日・タイ環境協力—人と人の絆で紡いだ35年』

JICA緒方貞子平和開発研究所では、これまで行ってきたJICAの事業を振り返り、その軌跡と成果を分析してまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズを刊行しています。本シリーズの第30弾として、『科学技術大学をエジプトに—砂漠の地で始まる大学造り、紡がれる人々の「物語」』を刊行しました。

2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロは、世界中の人々に大きな衝撃を与えました。特に欧米諸国によるアラブ諸国を見る目は変わり、エジプトでも海外諸国における対エジプト支援の姿勢が変化したり、エジプトから海外への留学生数が減少したりと、その影響が顕著に表れていました。そのような状況下で国の未来を危惧したエジプトは、日本との連携に可能性を求め、ある希望を表明しました。「国の発展を支える科学技術人材を育成したい。そのために日本の工学教育のソフト資源を結集した最先端の科学技術大学を協働で創設したい」。それは日本にとっては、まさに壮大な“夢物語”。JICAや日本の高等教育関係者にとって、開発途上国の既存の大学を支援した経験はあるものの、異国の地で「日本」の名を冠した大学をゼロから設立するのは比較的新しい試みだったからです。

著者の岡野貴誠氏は、2008年のJICAによる技術協力プロジェクト開始当初から約9年間、エジプト・日本科学技術大学(E-JUST)の設立と発展に尽力しました。岡野氏によると、「E-JUSTの発展は苦難の歴史」。広大な砂漠での進まないキャンパス建設にはじまり、施設や教材、教員の不足、インターネットも使えない研究環境、大学設立・運営の関わり方への日本側とエジプト側の認識の違い、そしてアラブの春によるJICA専門家の退避など、幾多の試練に見舞われたといいます。それでも、プロジェクトに参加した日本の各大学の協力を得て「研究室教育」といった日本型工学教育を伝え、2021年には開校から10年を迎えたE-JUST。アフリカ各国からの留学生を含む約2,000人の学生を抱え、教員一人当たりの発表論文はエジプト1位を維持するなど、アフリカにおける科学技術大学としての発展を遂げつつあります。

岡野氏のE-JUSTでの活動は、技術移転における「支援する者」と「支援される者」の関係を超え、同じ目標を持った「私たち」としての関係を構築する重要性を示しています。岡野氏は「E-JUSTの歴史には主人公もヒーローもいない。夢の実現に思いをかけた一人一人の小さな物語で紡がれた軌跡こそ、E-JUSTの歴史」と語ります。時に対立しながらも、エジプトと日本の関係者が同志として20年にわたり切磋琢磨したからこそ、E-JUST設立の夢は実現したのです。本書は、40人以上の関係者へのインタビューを通じて明らかにされたそれぞれの物語を通して、共創時代の新しい国際協力の形を模索しています。

著者
岡野 貴誠
発行年月
2022年2月
出版社
佐伯コミュニケーションズ
言語
日本語
ページ
221ページ
関連地域
  • #アフリカ
開発課題
  • #教育
ISBN
978-4-910089-18-8