GRIPS開発フォーラム共催ウェビナー「開発を学ぶ、伝える~日本の産業開発・開発協力の経験と翻訳的適応アプローチ~」開催

2024.04.26

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、オープンアクセス書籍『Introducing Foreign Models for Development: Japanese Experience and Cooperation in the Age of New Technology 』の刊行を機に、2024年3月26日に政策研究大学院大学(National Graduate Institute for Policy Studies: GRIPS)とウェビナー「開発を学ぶ、伝える~日本の産業開発・開発協力の経験と翻訳的適応アプローチ~」を共催しました。

いかに効果的に学び、自国の発展に生かしていくか

最初に、本書の編者の一人であるJICA緒方研究所の大野泉 シニア・リサーチ・アドバイザー(GRIPS教授)が書籍の内容を紹介しました。本書はJICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析 」の成果をまとめたものです。開発の中心テーマとしての知識・学習、日本の開発経験と「翻訳的適応」の視点、日本の産業開発協力の経験と受容国の取り組み、新時代における翻訳的適応アプローチの有効性等に焦点をあて、幅広い考察が行われています。

大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、「開発にとって重要なのは、何の政策を打ち出すか(What)よりも、外来の成功事例をローカライズし、自国に適応したモデルを構築する方法(How)を学習すること」と強調。外来のシステムを取り入れるときに自国に合うように選択・修正する「翻訳的適応」と、政策能力は学習を通じて高め得るとする「動態的能力強化」について説明しました。また、工業化の新潮流についても触れ、「日本は自らの産業開発協力の能力をアップグレードし、開発途上国と共に学び、創造し、問題解決するプロセスに取り組みながら、知識のプラットフォームをつくって翻訳的適応アプローチの主流化と実践のファシリテーターの役割を果たすべき」と提唱しました。

書籍の内容を紹介したJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(GRIPS教授)

続いて、エチオピアのカイゼン機構の初代所長を務めたゲタフン・タデッセ・メコネン氏からのビデオメッセージが寄せられました。ゲタフン氏は「日本人専門家は主に自動車や電子・電機産業の経験をベースにカイゼン手法を教えてくれたが、エチオピアでは繊維、食品加工、建設、職業技術訓練といった分野が中心。また日本は民間主導でカイゼンを導入したが、エチオピアでは政府主導で取り組むなど、自国の事情に合わせてカスタマイズすることが必要だった」と振り返り、カイゼン機構の設立を含め、エチオピアでの成功の鍵について述べました。

アフリカやアジアでも広まる翻訳的適応

2つの事例紹介では、まずJICA南アフリカ共和国品質生産性向上プロジェクトの神公明チーフアドバイザーが「アフリカにカイゼンを伝える:技術協力における翻訳的適応の実践」と題して報告。アフリカでは2000年代後半から多くの国に日本のカイゼンが導入され、その普及に向けたアフリカ・カイゼン・イニシアティブやアフリカ・カイゼン・アワード(表彰制度)など、アフリカならではの取り組みが紹介されました。神チーフアドバイザーは、同書籍の複数の章で紹介されているアフリカでのカイゼン普及と翻訳的適応を示しながら、「カイゼンは、アフリカが置かれた状況などに適応して変わっていくべきもの」と述べました。

アフリカでの事例を紹介したJICA南アフリカ共和国品質生産性向上プロジェクトの神公明チーフアドバイザー

次に、ILO Skills for Prosperity Programme in Malaysiaの森純一前チーフ・テクニカル・アドバイザーが「ベトナムにおける産学連携による職業技術教育・訓練と日本の開発協力」と題し、ハノイ工業大学の事例を紹介しました。産業人材の育成には産業界の参画が課題であることから、2010~2013年に実施されたハノイ工業大学技能者育成支援プロジェクトでは、ハノイ工業大学が日本の訓練プロセス管理手法を取り入れ、初年度に講師・職員自ら約100社の企業を訪問して産業界のニーズを聞き取ったことで同大学側と企業側の双方の理解が進み、産学連携が進んだ過程を説明しました。翻訳的適応として、プロジェクト終了後もハノイ工業大学が自分たちの能力や状況に合わせてカスタマイズしながら活動していることを指摘し、森氏は「まだ通過点であり、翻訳的適応はダイナミックに継続していくプロセスだ」と締めくくりました。

ベトナム・ハノイ工業大学の事例を紹介したILO Skills for Prosperity Programme in Malaysiaの森純一前チーフ・テクニカル・アドバイザー

質疑応答では、相手国指導者やカウンターパートの強いコミットメントがない場合の政策支援のあり方、自国流に適応する具体的な手法や産官学連携のあり方など、さまざまなテーマで活発な議論が行われました。

最後に、JICA管理部の山田実次長(前JICA緒方研究所上席研究員)が総括し、「この研究成果を開発途上国のみなさんに広められるように取り組んでいくと共に、私たち自身も学び、共創を進めていきたい」と結びました。

総括を行ったJICA管理部の山田実次長(前JICA緒方研究所上席研究員)

このウェビナーの動画は以下からご覧になれます。

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