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JICA緒方研究所レポート「今日の人間の安全保障」第2号発刊記念シンポジウム―多様な危機が複雑に絡み合うなか、人々の命、生活、尊厳を守るには?―開催

2024.07.17

2024年5月30日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、国際協力70周年記念事業として、JICA緒方研究所レポート「今日の人間の安全保障」第2号の発刊記念シンポジウムを国連開発計画(UNDP)と共催しました。

会場での対面とオンラインで開催し、多くの人が参加

複合的危機下でこそ必要とされる人間の安全保障

開会にあたり、ビデオメッセージを寄せた田中明彦JICA理事長は、「世界が複合的な危機に直面している中、人々を中心に据え、脅威を広く捉えて対処するのが人間の安全保障の考え方。JICAは人間の安全保障をミッションに掲げ、積極的な取り組みを続けていく」と述べ、ウクライナでの地雷除去やフィリピンでの洪水対策などの取り組みを紹介しました。

続いて、JICA緒方研究所の峯陽一研究所長が基調講演で本レポートの内容を紹介。さまざまな脅威が連鎖し複合的な危機として人々の生活を脅かす中、多様なアクターによる連帯の重要性を強調しました。また、「科学」「物語」「指標」という3つのキーワードを挙げ、人間の安全保障の研究への自然科学の参加を確保する、人間の安全保障の意義を伝えるために事例を集める、人間の安全保障に関する指標の研究を進めるというJICA緒方研究所の今後の活動の方向性も示しました。

基調講演でレポートの内容を紹介したJICA緒方研究所の峯陽一研究所長

次に、高須幸雄国連事務総長特別顧問が基調講演を行い、2024年1月に発表された「人間の安全保障に関する国連事務総長報告 」をふまえ、最新の国連での議論を紹介。「2010年から人間の安全保障を世界的に広める活動をしているが、今回の報告を書くにあたり、世界各国・地域で人間の安全保障の考え方が広く実現・実施されていることを知り、非常に驚いた。複合的な課題を解決しSDGsの達成を加速するには、人間の安全保障の考え方に基づいたアプローチが重要だ」と述べました。

基調講演を行った高須幸雄国連事務総長特別顧問

未来に向け、さまざまな視点から人間の安全保障を考える

JICA緒方研究所の宮原千絵副所長がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、5人のパネリストが多様な視点から議論を行いました。

JICA社会基盤部の眞田明子次長

JICA緒方研究所の原田徹也上席研究員

東京大学大学院の阪本拓人教授

UNDPのハジアリッチ秀子駐日事務所代表

「これまで人間の安全保障実現の鍵として重要視されてきた多国間主義やグローバルガバナンスが揺らいでいる現在、人間の安全保障の実現を持続的に担保できる国際協調はあり得るのか」という論点に対し、峯研究所長は「第二次世界大戦後に現在に至る国際連合が誕生したように、現在の危機を経て、新しい国際協調システムが生まれる可能性がある。今はその産みの苦しみの時期ではないか」との考えを示しました。

JICA社会基盤部の眞田明子次長は自身が携わってきた実務を振り返りつつ、「例えば公共交通インフラの整備は、経済的な効果だけではなく、女性や障がいのある人に安全な移動手段を提供することでエンパワメントにつながった。このように、JICAの開発協力には人間の安全保障が通底している」と述べました。

JICA緒方研究所でマクロ経済分野の研究に取り組む原田徹也上席研究員は、「コロナショックで開発途上国はグローバル・インフレと債務危機で大きな打撃を受けた。例えば、スリランカは教育や保健が無償といった保護的な政策が強く、人間の安全保障の観点からはよいかもしれないが、コロナショックを受け経済が立ち行かなくなった。マクロ経済的な制約の中で、どのように人間の安全保障を実現していくのか、現実的に議論していくことが重要」と指摘しました。

東京大学大学院の阪本拓人教授は、人間の安全保障の可視化の試みに言及。過去にさまざまな研究者や機関が人間の安全保障を指標化してデータの生成を試みたが成功しなかったとし、「データを継続して収集するマンパワーや資金の確保が課題だったが、今後はオープンデータから自動化で必要な情報を抽出するなど最新の技術を活用できるのでは」と展望を述べました。

「未来に向けて若者の視点を考慮する必要があるのではないか」という論点に対し、UNDPのハジアリッチ秀子駐日事務所代表は、UNDPが行っている日本とアフリカの若者による模擬アフリカ連合の活動などを紹介し、「望ましい未来を考え、そのビジョンからバックキャスティングして開発計画をつくるのが今後トレンドになっていくからこそ、世代間ギャップを埋めるメカニズムをどんどん作っていくことが必要」と訴えました。

パネルディスカッションでモデレーターを務めたJICA緒方研究所 宮原千絵副所長

閉会のあいさつに立った外務省の赤堀毅地球規模課題審

最後に、外務省の赤堀毅地球規模課題審議官が閉会のあいさつに立ち、「日本の開発戦略はオーナーシップとパートナーシップを重要視しており、人間の安全保障をどう結びつけていくのかが重要。また、新しい考え方を持って変革を起こせる若者に、人間の安全保障の理念と理論を引き継ぎ、実践に移していただきたい」と述べ、シンポジウムを締めくくりました。

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