2024年11月4日、カンボジア・マイクロファイナンス協会（Cambodia Microfinance Association）とカンボジア国立銀行（National Bank of Cambodia: NBC）がカンボジア・シェムリアップにて共催した年次マイクロファイナンス会議に、JICA緒方貞子平和開発研究所（JICA緒方研究所）の相場大樹 客員研究員（JICA専門家）とソワンルン・サムレト 客員研究員（埼玉大学教授）が参加しました。

同会議のテーマは、「持続可能で包括的なマイクロファイナンス：セクターの現状と未来の動向」。マイクロファイナンス機関の幹部、政府関係者、開発パートナー、国際機関の代表者を含む約400人が参加し、成果、課題、そして包括的な金融の将来について議論が行われました。具体的には、カンボジアの経済成長と金融安定性、金融セクターの強みと課題の検討、中小企業金融、グリーンファイナンス、上下水道プロジェクト向けの革新的な資金調達ソリューションの模索など、多岐にわたるテーマについて、参加者間での活発な議論と知識の共有が行われました。その他の議題として、パンデミック後の事業回復に向けた金融サービスや、カンボジアにおける責任ある金融（Responsible Finance）の促進に関する課題も取り上げられました。

専門家、NBCおよび国際機関の代表者による多様なプレゼンテーションやパネルディスカッションも行われました。その一つとして、NBCカンボジア金融情報部のHeng Bomakara部長がモデレーターを務めたパネルディスカッションには、相場客員研究員と、サムレト客員研究員がパネリストとして参加。カンボジアのマイクロファイナンス分野におけるインパクト投資と社会関係資本（ソーシャルキャピタル）の役割について、また、信頼、社会的ネットワーク、マイクロファイナンスローンの影響といった投資意思決定に影響を与える主要な要因についての議論がされました。

相場客員研究員は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中のカンボジアでのマイクロファイナンス機関（Microfinance Institutions: MFI）におけるインパクト投資家の投資パターンに関する研究成果を発表しました。この研究は、2017～2021年の間の70のMFIにおける5,300件以上の投資機関からの債務データを基に行われました。その結果、財務的リターンだけなく社会的利益も同時に追求するインパクト投資機関は、国内の借り手に高いアウトリーチを持つMFIを好む傾向があることが示されました。パンデミック中、インパクト投資機関はMFIへの投資を維持した一方で、一部の国内投資家は投資を減少させたことも分かり、この傾向は、グローバル資本市場の不安定な時代におけるインパクト投資の重要性を示唆していると述べました。

サムレト客員研究員は、金融包摂の促進における地域内の信頼と社会的ネットワークの役割についての研究成果を発表しました。JICA緒方研究所による研究プロジェクト「カンボジアにおける金融包摂促進のための実証研究 」の一環として実施されたカンボジアの7つの州を対象とした調査によって、各家計で人々や地域のリーダーへの信頼が社会関係資本の保有量と正の相関を持つことが明らかになり、女性が世帯主である家計は男性が世帯主である家計に比べて社会関係資本が低い傾向があることが示されました。また、MFI借入と社会関係資本との間に正の関係が観察されました。この調査結果から、地域社会の信頼を育むことが各家計で社会関係資本の有効性を高めるために重要であり、それが金融リテラシーの促進、搾取的なインフォーマル金融機関への依存の解消、そして地域社会全体の福祉の向上にとっても重要であると述べました。

2024年の年次マイクロファイナンス会議は、カンボジアにおける包括的な金融セクターを育成する上でのインパクト投資、地域社会の信頼、そして責任ある金融サービスの重要性について議論を深める場となりました。今回の議論を基に、研究チームは社会関係資本とインパクト投資に関してさらに研究を深め、研究成果をJICA緒方研究所のディスカッション・ペーパーシリーズとして発表する予定です。