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ナレッジフォーラム「気候変動が進行する世界で食料安全保障を実現するための水資源戦略」開催

2025.01.21

2024年12月6日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、ナレッジフォーラム「気候変動が進行する世界で食料安全保障を実現するための水資源戦略」を開催しました。今後、予想される人口と食料需要の増加を前に、気候変動の影響下での水資源戦略と開発協力について議論が交わされました。

過酷な時代を乗り切った経験を未来に生かす

JICA緒方研究所の宮原千絵 副所長による開会のあいさつに続き、水分野研究の第一人者であり、水分野のノーベル賞とも呼ばれるストックホルム水大賞(2024)の受賞者でもある、東京大学の沖大幹 教授(JICA緒方研究所特別客員研究員)が講演を行いました。

講演した東京大学の沖大幹教授(JICA緒方研究所特別客員研究員)

講演した東京大学の沖大幹教授(JICA緒方研究所特別客員研究員)

沖教授は「水は地球上を循環している資源なのに、なぜ不足するのか?」と問いかけ、水の特徴として、地域や季節によって偏在する、安く大量に必要とされるので流域外輸送の経済合理性が低い、といった点を挙げました。また、1キロの小麦を作るのに1,000トンもの水が必要と言われ、水資源が少ない国が食料を輸入するときには、その食料生産に使われた水をも輸入していると捉えるバーチャルウォーター(仮想水)についても説明。世界中で食料が交易されることで多くの国が水不足を補っており、バーチャルウォーターの主な輸出国はウルグアイやカナダ、オーストラリア、アメリカといった農業大国が占め、輸入国はリビア、サウジアラビア、UAE、クウェートなど、水資源が少なく財政的に余裕のある中東の国々が占めているデータを示しました。

また、気候変動が起こったときに現状がどう変化するか、干ばつの増加、人口分布、穀物の収量、飢饉の発生など、さまざまなシナリオにもとづいたシミュレーションを提示。例えば飢饉については、一見、自給自足のほうが安心のように思えるものの、不作時に食料を輸入する財源がない場合に飢饉になるリスクが高まるため、通常時から穀物の輸入割合が高く、経済力がある国のほうが飢饉は起きにくいという統計結果を示しました。

さらに沖教授は、1961~2011年の50年で世界の人口は2倍以上に増え、農地はほとんど増えていないものの、緑の革命などに支えられて作物の生産量が3.5倍に増えたことなどを指摘。「これから人口が増えても過去とくらべればゆるやかなため、我々は一番大変だった時期をなんとか乗り切った、というのが個人的な見解。今後は、過去の経験を生かし、人口の伸びにあわせて食料供給を増やしていく、あるいは増やした食料を買えるように開発途上国の発展を促していくのが重要。水不足とは、開発の問題だ」との考えを示しました。

開発協力で社会全体の底上げを

続いて、JICA緒方研究所の佐藤一朗 上席研究員がモデレーターを務め、沖教授と国立研究開発法人国際農林水産業研究センターの白鳥佐紀子情報広報室プロジェクトリーダーを交えたパネルディスカッションが行われました。

モデレーターを務めたJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員

モデレーターを務めたJICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員

農業経済学を専門とする白鳥プロジェクトリーダーは、「食料と水は切っても切れない関係。世界の人口増加に加え、植物性食品から動物性食品へのシフトのように消費者の食事も変化している。農業生産も、かつてのようにただ増産を目指せばいいのではなく、栄養バランスや環境への負荷にも配慮する必要があり、食料問題は複雑化している」とコメントしました。また、アフリカでの食品の消費者行動を研究した経験も共有したほか、コメなどと比べて栽培に必要な水が少ないソルガムやミレットといった伝統作物が見直されていることを紹介。さらに、水資源の効率的な利用として、センサーで水位を把握するといったスマート農業の活用などにもふれました。

パネルディスカッションに参加した国立研究開発法人国際農林水産業研究センターの白鳥佐紀子情報広報室プロジェクトリーダー

パネルディスカッションに参加した国立研究開発法人国際農林水産業研究センターの白鳥佐紀子情報広報室プロジェクトリーダー

フロアを交えた質疑応答では、「水資源がなく、所得もなかなか上がりにくい国の食料安全保障を支援するときに、どこを重点的に支援すべきか?」という問いに沖教授が、「水と食料の支援だけをすればいいわけではなく、例えば教育、保健、インフラなどを支援することで、社会全体の底上げをしていく必要がある。それが結果として、水の管理や食料生産の適正さにもつながっていく」と応じ、総合的な開発の重要性を改めて強調しました。

そのほかにも、海水の淡水化といった水に関する技術の発展から、穀物の収量予測、バーチャルウォーター輸出国の変化、開発途上国での農業技術の導入に至るまで、さまざまなトピックで活発な議論が行われました。

なお、水資源に関連した JICA緒方研究所による研究成果(出版物)はこちら よりご覧いただけます。

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