No.5 地震復興における包摂性に配慮したBuild Back Betterの実践的手法:JICAネパール地震復興事業に基づく論考
JICA緒方研究所について
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ネパール地震は、2015年3月に仙台防災枠組(SFDRR)が採択された直後世界で初めて発生した大災害であり、同地震復興は今後の世界の災害復興のあり方を方向付ける上で極めて重大な意味を持つ。「ビルド・バック・ベター(BBB:より良い復興)」については、達成要件の国際標準化も十分にされておらず、国際的な共通認識が十分に確立も浸透もしていない中で、最近「Inclusive Recovery(IR:包摂的な復興)」という新たな復興のあり方が議論されるようになっている。IRの観点では、BBBについて、個人・世帯レベルでの社会経済ステータスの違いを考慮せず一律に社会全体の脆弱性削減を目指そうとすることで、投入できる資源が十分でない脆弱層を取り残す危険性が強調されがちな面がある。しかし、実施上の配慮・工夫を適切に行うことで、それぞれの視点から補完しあって両立できるものであり、むしろ相互補完することで、より望ましい災害復興を目指すことにつながると考えられる。本稿では、両者の関係性を理論的に整理した上で、JICA緊急住宅復興事業における取組の整理を通じて、実践的なBBBとIRの両立方法を提示することを目指した。
本稿結論としては、JICA緊急住宅復興事業は、本稿で提示した“BBBとIR両立に有効と考えられる取り組み”を実践することはできなかったが、コミュニティ動員プログラム(CMP)により被災者への働きかけを強化することで、自助努力に基づく住宅復興を活性化するなど、その時々の課題に応じて漸次追加投入を行うことによって時間差をもって段階的に取り残される層を最小化していったことが確認された。しかし、CMP自体は基本的に自助キャパシティを有する層への促進策であり、それでも動くことができない最脆弱層が生じることをあらかじめ想定したうえで、最脆弱層への追加支援を別途準備して事業開始当初から並行展開する必要があることが考察の結果として導かれた。
※このフィールド・レポート要約版の英語版を2021年5月に追加しました。
キーワード:地震、災害、緊急住宅復興、復興支援、防災
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