「人間の安全保障」に見る日本の援助の特色 —外務省・JICA文書のレビューより
JICA緒方研究所について
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本研究は、日本の開発援助への導入から現在にいたる「人間の安全保障」に関わる言説と活動の経緯を跡付け、活動における成果/意義と限界を明らかにし、日本の援助の特色を示して、ODA歴史研究に貢献する、ことを目的とし、①日本の開発援助の「理念」としての「人間の安全保障」とはどのようなものであったか、②開発援助理念としての「人間の安全保障」の「実施方針」「実施体制」「実地活動」はどのようなものであったか、③「人間の安全保障」の理念は日本の開発援助活動にどのような独自の影響を持ったか、④援助理念としての「人間の安全保障」はどのような限界を持ったか、の4つの論題への答えを外務省と国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)の文書の検討を通して追求し、以下の結論を得た。
日本の「援助理念」としての「人間の安全保障」についての外務省とJICAにおける概念規定は曖昧であり、旧来の開発志向に比しての独自の意義が損なわれた。「重点課題」の設定は一貫せず、実施上の「視点」あるいは「ポイント」とその運用方法は不適切であり、改革の柱としての「人間の安全保障」という理念が、組織としてのJICAの実地活動の変化を導き律することはなく、現実界での援助の実地活動には有意な影響を及ぼさなかった。これは、理念 (「言語界」)が実地活動 (「現実界」)を律することはない、という日本の援助の特色をあらためて示すものであった。
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