『未来ある子どもたちに「新しい体育」を―体育がつなげた仲間たちのカンボジア体育の変革』
ポル・ポト時代の影響で学校教育が崩壊し、その立て直しに向けた取り組みを続けるカンボジア。施設も教員も足りない中で、体育科教育の優先順位は低く、週2時間だけの体育の時間にはクメール体操をしたり全国スポーツ大会の準備をするだけだったりと、その意義が理解されていませんでした。
特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールドは、1996年からのアンコールワット国際ハーフマラソンや、2001年からのスポーツを通じた青少年・指導者育成スポーツ祭を実施してきました。2006年からはJICA草の根技術協力事業を活用して小学校の体育科教育の改革プロジェクトに取り組んでおり、2012年にカンボジアに赴任したのが著者の西山直樹氏でした。カンボジア教育省、JICA、ハート・オブ・ゴールドが共に目指したのは、リズム運動、器械体操、陸上競技、サッカー、バスケットボール、バレーボール、体力測定などを通じて、「態度・知識・技能・協調性・習慣」を学ぶ「新しい体育」の普及です。しかし、学習指導要領をつくるにも、例えば「跳び箱」というクメール語を考えるところからのまさにゼロからのスタートでした。
カンボジアの全国の子どもたちに「新しい体育」を届けたい―。本書では、学習指導要領の策定、ワークショップの開催、日本での研修などを通じ、小学校から中学校、高等学校、さらには体育大学での「新しい体育」の普及を広げてきた約20年の取り組みが綴られています。さらに、「カンボジア体育の産みの父」といえる学校体育・スポーツ局局長を務めたプラム・ブンジー氏をはじめ、道具がなければ自分で卓球台を作ってしまうような熱意を持った各地のカンボジアの教員たち、そして海外協力隊員など、共に信念をもって「新しい体育」の普及を推進した両国の関係者の声も紹介されています。本書には、「体育という教科は学校の教科の一つにしか過ぎないが、この週2 時間の授業の中に、無限の可能性が含まれている」と語る西山氏のゆるぎない想いが込められています。
scroll