『海外協力隊と大学院で国際協力の道を目指す―ザンビア特別教育プログラムの軌跡』
JICA緒方研究所について
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子どもたちが学校に行っても基本的な読み書きができない―。アフリカ南部に位置するザンビアが直面していたのは、「極度の低学力」という大きな課題でした。そこで広島大学は、2002年からJICA海外協力隊(以下、協力隊)と連携した「ザンビア特別教育プログラム(通称ザンプロ)」をスタート。修士課程の大学院生が、在学中の2年間、協力隊の理数科教師としてザンビアで活動しながら、同時に研究活動も行うという取り組みです。
ザンビアに派遣された学生たちは、理数科教師として数学や理科の授業を行う中で、「分数の意味が理解されていない」「科学の授業が、実験をして能動的に考えるのではなく、知識として詰め込むだけになっている」など、さまざまな課題を目の当たりにしたほか、HIV/AIDSなどで同僚や生徒など身近な人が亡くなったり教員のストライキで同僚が学校に来なかったりと、日本とは異なる厳しい現実に直面します。驚き、考え、行動し、振り返る。その連続の中で、新しいものを吸収し、ザンビアの学校や教育省の関係者と課題を共有し、研究の視点を持つことで、学生たちは成長していきます。留学ともインターンシップとも違う「理論と実践の往還」が、ザンプロの最大の特徴です。
広島大学は、2007年からザンビア大学との合同研究セミナーを継続して開催しているほか、理数科カリキュラム改定や教員の授業力向上などに関するJICA技術協力プロジェクトとの連携、ザンビアからの留学生の受け入れも行ってきました。さらに2017年からはJICAプロジェクト研究「算数能力評価研究プロジェクト」を実施。ザンビアの子どもたちの基礎的算数能力の実態を調査し、エビデンスに基づいたカリキュラム開発や次世代のローカルリーダーの育成にも貢献するなど、ザンプロは多面性のある活動へと広がりを見せています。
ザンプロを発展させ、その後のプロジェクトにも深く関わってきたのが、本書の著者である広島大学の馬場卓也教授。大学卒業後、理数科教師として協力隊に参加し、その後も理数科教育のJICA専門家としてケニアやバングラデシュの教育に関わってきた経歴を持ちます。同書では、そんな著者の視点から、ザンプロの背景や制度、構想段階から現在に至るまでのザンプロ開発の道のり、ザンプロ修了生の進路やその後の活躍、ザンビア教育界に与えた影響などが綴られています。
「ザンビアに行かなければ今の自分はなかった」と振り返るザンプロ修了生や、「ザンプロは言うなれば“継続する贈り物”のようなもの。いろいろな面で恩恵を受け、それは今も続いている」と語ってくれたザンビア側のキーパーソンなど、たくさんの生の声も散りばめられ、20年以上にわたる広島大学の「大学院教育と国際協力活動の融合的取り組み」がつまった一冊です。
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