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『タイの新しい地平を拓いた挑戦 東部臨海開発計画とテクノクラート群像』

  • #プロジェクト・ヒストリー

JICA研究所では、これまで行ってきたJICAの事業を振り返り、その軌跡と成果を分析してまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズを刊行しています。本シリーズの第18弾として、『タイの新しい地平を拓いた挑戦 東部臨海開発計画とテクノクラート群像』を刊行しました。

1980年代初頭のタイでは、農産物や鉱産物以外に輸出品がなく、経済は閉塞感に覆われていました。そこで工業化・近代化を目指し、持ち上がったのが「東部臨海開発計画」。首都バンコクの南東に位置する東部臨海地域に、大型船舶が停泊できる近代的な深海港と大型工業団地を建設する計画です。しかし、その実現にはさまざまな困難が待ち受けていました。

当時、タイにとっての2大ドナーは日本と世界銀行。日本は高度経済成長期に大型の臨海工業地帯を建設・運営した経験を生かして支援に乗り出した一方、世界銀行はタイの経済規模からすると同計画は過大投資だとして強硬に反対したのです。さらに、タイ国内でも推進派と反対派が激しく対立し、同計画はいったん凍結されてしまいます。

しかし1985年のプラザ合意以降、日本を含む海外企業によるタイへの対外直接投資が急増し、電力や港などのインフラが不足したため、同計画が再び動き出すことに。日本は1990年代にかけて、工業団地、道路、水源となるダムなどのインフラ整備を支援しました。現在、東部臨海地域は自動車産業などの集積地としてタイの経済をけん引する一大工業地域になり、経済発展の成功例としてミャンマー政府が視察に来るほどになりました。日本からタイ、そしてミャンマーへと、ナレッジ(知識)の連鎖がつながっています。

著者の下村恭民法政大学名誉教授は、海外経済協力基金(OECF、現JICA)の首席駐在員として1985年にタイに赴任し、長年同国の発展を見守ってきました。本書では、ドナーにも国内の対立にも“しなやか”に渡り合ったタイのテクノクラート(高度な専門知識と政策能力を持つ官僚)たちの複雑な人間関係や、著者との会話の中で垣間見える一人一人の人となりにもスポットを当てています。そして、タイが新しい一歩を踏み出そうとした転換期に日本がどのような役割を果たしたのか、その知られざるドラマが描かれています。

著者
下村 恭民
発行年月
2017年10月
出版社
佐伯印刷
ページ
135ページ
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #経済政策
  • #都市開発・地域開発
研究領域
経済成長と貧困削減
ISBN
978-4-905428-77-0