No.5 Peacebuilding through ‘Sport for Development and Peace’ in South Sudan
JICA緒方研究所について
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南スーダンでは2011年の独立後も二度にわたる紛争が勃発し、民族間の緊張が高まるなか、「平和と結束」の重要性が高まっている。かかる状況のなか、スポーツを通じた平和構築支援の取り組みとして、全国スポーツ大会「National Unity Day」(NUD)が2016年から毎年開催されている。本稿では、NUDの効果を検証するために、2022年に開催されたNUD6の選抜選手と非選抜選手を対象として、選抜選手を処理群、非選抜選手を対照群としてNUD6大会前後のパネルデータを構築することにより、また、彼らへのインタビューから収集した証言を用いて、NUD6の効果を定量的、並びに定性的に検証を行った。具体的には、定量分析における主要な変数として信頼を社会関係資本の代理変数とし、同じコミュニティ内、他民族、および中央政府との関係において、不信が紛争を助長するかについての検証を行った。その結果、NUD6を通じて信頼を構築することにより、他民族に対する紛争認識が緩和されることが明らかとなった。この結果を解きほぐすために質的データを用いた分析を行った。その結果、選手たちにとっての「平和」や「共存」の意味とその重要性が示され、また、紛争の緩和に向けたスポーツの役割についても確認することができた。そのなかで、新たな発見として、スポーツを通じて紛争緩和に貢献した事例が南スーダンにおいて数多くあることが明らかとなった。また、NUD6期間中、選手たちにとって、他民族グループと交流する機会が数多くあったことや、一緒に食事をしたり、試合をしたりすることは、交流の機会であっただけでなく、選手たちが他の民族グループと友達になるきっかけにもなり、そのことにより信頼が醸成されていったことを確認することができた。このことを可能にしたこととして、選手たちが示した「平和」と「共存」を達成するためには、平和な環境のなかで、一緒に過ごし、お互いを理解することの重要性を挙げており、まさに選手たちが述べていた環境、つまり平和的な共存の場をNUD6が提供していることを示す結果となった。なお、本稿の検証により、NUDが「開発と平和のためのスポーツ」支援の事例の一つとして、学術的および実務的な貢献につながることを期待している。
キーワード:社会的結束, 社会関係資本, 開発と平和のためのスポーツ, 南スーダン, 平和構築, 適応的平和構築
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