No.3 Special Education Needs and their Multiplicity: Qualitative Analysis of Policy and Interview Surveys from the Communities Surrounding People with Hearing Impairments in Nepal
JICA緒方研究所について
JICA緒方研究所について
包摂性(インクルージョン)とは、多様な人々がお互いの個性やニーズを認め合い、社会の中で共に働き、生活している状態を指し、「持続可能な開発目標(SDGs)」においても焦点となっている。しかし、包摂性は一義的なものではなく、当事者のさまざまなニーズや、多様な人々が共に生きるために必要なことを包含する、多面的な考え方であることに留意する必要がある。そこで本研究では、人々が生活し、さまざまなニーズを持つ多様な文脈において、複数の意味を持つことを「多面性(multiplicity)」と定義し、現実の社会では、人々の特別な教育ニーズ(Special Education Needs: SEN)の多面性によって、包摂性が異なる意味を持つことがあることを明らかにした。
研究方法としては、特別な教育ニーズの多面性という構造を明らかにするために、ネパールにおける聴覚障がい者を取り巻く地域社会の政策分析と、聴覚障がい者自身、ならびにその教育関係者へのインタビューを通じた事例研究を行った。多様な社会的・文化的背景を持つネパールは、他国とは異なり、インクルーシブ教育発展の当初から「インクルーシブ/特別支援教育(Special Needs Education: SNE)」として特別な教育ニーズを意識した統合教育へのアプローチをとってきた。ネパールでは政策面では、社会の不利な立場にある人々に配慮し、包括的で公平な教育へのアクセス、参加、学習成果を達成するための学習環境、カリキュラム、教材や方法を含む教育・学習プロセス、評価や試験の互換性の改善や、人々のニーズに応える行政システムの最適化、人材育成を目指してきた。しかしながら、現実には、特別な教育ニーズの多面性は、障害という物理的要因だけでなく、①状況によって異なる手話の教授法の適否、② 教員の指導スキル、 ③インクルーシブ教育選択をめぐる判断の難しさ、④ 地域支援センターの役割、⑤将来の職業選択、⑥障がいに対する周囲の理解をめぐる不利益や困難さも社会的文脈の影響を受けており、学校での学習や就労を通じた社会的包摂性に関して、障がい以上に当事者にとっては包摂の妨げになることが明らかとなった。
特別な教育ニーズに注目した本研究の分析は、ネパールの聴覚障害者を取り巻くコミュニティに限定したものではあるが、教育機会の平等だけでなく、学習者にとって有意義な学習のための公正性の問題を考える際にも、特別な教育ニーズの多様性を考える必要性を提起するものである。
キーワード:インクルーシブ教育、特別支援教育(SNE)、特別な教育ニーズ(SEN)、ネパール、公正性、平等性、包摂性、多面性、聴覚障がい者
scroll