ビジネスだからこそできる持続可能な支援-コーヒー豆で夢を実現-(第2回)

COYOTE バイヤー
門川 雄輔(かどかわ ゆうすけ)

【画像】JICA海外協力隊2018年度2次隊
任国:エルサルバドル
職種:マーケティング

全4回でお届けするロングインタビューの今回は第2回です。

コーヒー屋さんから協力隊へ

【画像】江川:コーヒー屋さんに就職された後、協力隊に行くまでにどのような転機があったんですか。

門川:南米では現地の人たちにすごくお世話になったので、またコーヒーも好きだったので、向こうの人たちとつながりのある職業がいいなと思っていました。日本でやることが南米の人たちのためになっているならいいなという思いもありましたし、色んな国のコーヒーを扱ったり、それこそ南米にも行ったりできるのかと思っていたんですが、実際の仕事は営業マンだったので、スーパーのバイヤーや卸の問屋と商談するのが仕事で、味とか生産者とか別にどうでもよくて、価格とどれだけ売れるかみたいな話しかしないんですね。僕も営業マンなので売り上げしか成績にならないし、コーヒーを売りたくてやっているのに、結局コーヒーを販売する時に値下げする人になってしまったから、何のためにやっているのかなという気持ちになって、すごく美味しいと自信持って言えないものも美味しいですって言わないといけないこともありますし、これは良くないなと思いましたね。

でも一方で、コーヒーはどんどん好きになっていってたんですよね。コーヒーがなんで美味しいかと言ったら、素材なんですね。焙煎がいいとか、淹れ方が上手いとか言いますけど、結局美味しい豆で入れたらコーヒーは美味しいから、原料のコーヒー豆のことを知らないといけないというのがベースにあって、何かしら産地に滞在する方法を探していて、JICA海外協力隊のエルサルバドルの案件をちょうど見つけて協力隊に応募しました。

江川:コーヒーに関われることで実際に海外に住みたいという気持ちから協力隊にたどり着かれたということですか。

門川:そうですね、最初から協力隊になりたかったわけではなくてコーヒーの生産者がいなくなったらコーヒーがなくなってしまう、それを理解するために応募しました。実際中身もそういう案件だったので、そういった活動ができるならいいなと思いました。

江川:もともとの繋がりのある、やっぱり南米のコーヒー農家の方と繋がりたいとか関わりたいと思ってらっしゃった。

門川:はい、スペイン語圏がいいなと思っていたので。あとアフリカやアジアの案件って、案件的には農業支援、作るのを助けてあげるとかスタッフとして働くみたいな感じで現場感が強いんですよね。

江川:どちらかというとコミュニティ開発みたいな。

門川:そうですね、コーヒーのプロが入るような活動ではないことが多かったですね。僕はコーヒーのサプライチェーンを見たかったというのがあって、作られる過程だけではなくて、それがどういう過程で売られるのか、どうやって生産者にお金が支払われているのかということに興味がありました。その辺まで関われる案件を探していたときに、エルサルバドルの案件はマーケティングの隊員で、スペシャリティコーヒーといわれる高品質なコーヒーやシングルオリジンといわれる単一農家とか、今そういうマーケットが広がっていて、その地域をどうやってブランディングしていくのか、みたいな内容だったので僕のやりたいこととも合っていました。

エルサルバドルの農園スタッフと門川さん
(右から2人目)写真撮影:吉永 鉄さん

江川:協力隊のお話が出ましたので、お話をもう少し伺いたいんですけど、2018年10月からエルサルバドルに行かれましたね。その当時の要請内容をもう一度教えていただけますか。

門川:プロモーションですね。派遣されたところはコーヒー栽培の新興地域というか、元々そんなに有名な産地じゃなかったんですけど、品評会とかで結構高く評価されるような生産者は多いです。量は全然作ってないのであまりビジネスとしてシステマチックにできることはなくて、オークションで上位になったコーヒーは売れるけどそれ以外はあまり買い手がないという地域の販売促進をするのが要請内容でした。

江川:エルサルバドル国内では、ブランディングされていて平均的に一定額以上の値段で売れる地域もあるんですか。

門川:ありますね、やっぱりアクセスの部分ですとか、あとは有名なところって一つ大きい輸出会社があったりすると、そこに行くだけで何十ものコーヒー農家のコーヒーが飲めたりするんですよね。クオリティもある程度伝えておいたら準備していてくれて、これとこれを買うって決めたらコンテナの準備までやってくれて、商社がコンテナ何個分と買ったりするんですけど、僕がいたところではすごく美味しいコーヒー作るんですけど、年間で全部合わせてもコーヒーの麻袋で100袋作れるかどうか。10袋の人もいるし、バイヤーも未舗装の山道を登って、その100袋のために買い付けに行かないし、訛ったスペイン語しか話せない農家の人と一軒一軒価格交渉もしないといけないんで、すごく面倒臭いんですね。バイヤーとしては現地の情報も把握しにくいです。だからやっぱり流通に乗りづらい仕組みになっていて、それをできるようにっていうので、カウンターパートは輸出業者としてある程度できていたから、それを生産者組合に巻き込んでいって、この流通拠点からブランディングしていくことを始める予定だったので、そこの日本市場を切り開いて認知度を向上させるといった内容でした。

江川:まさに門川さんがされたいことにピッタリだったんですね。

門川:そうそう、でも案件内容には農園に住みますってことは一切書いてなくて、配属先的には国のコーヒー審議会っていう、日本でいうJAみたいなところだったんで、その所在地が首都だったので、首都に住むと思ってたんですね。でも行ったらど田舎の農園に住むということが分かりました(笑)

畑中:首都の方が良かったですか。

門川:今となったら農園で良かったです。僕は農園に住みたかったので。
それに住んでいたのは田舎ですけど、カウンターパートの上司の会社は首都にあるので、首都まで戻ることも結構ありました。

江川:首都まで何時間で行けるんですか。

門川:2時間半くらいで行けます。小さい国なので、国全土で四国ぐらいの大きさしかないので。

全員:そうなんですね!(一同驚き)

江川:エルサルバドルは協力隊で行く前に立ち寄られたりされましたか。

門川:エルサルバドルは行かなかったですね。グアテマラは行きましたけど、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアは大体一緒で治安悪いって皆が言うから止めたんですが、行ってみたら全然違って、行っておけば良かったと思うくらい良いところです。

江川:では、元々思っていたイメージと実際は違ったんですね。

門川:全然違いましたね。

江川:一番違ったのはどういう部分ですか。

門川:人がやっぱり優しいですね。グアテマラはやっぱり観光業が多いから外国人に馴れ馴れしい人もいるんですけど、エルサルバドルは治安悪いことで有名だからこそ外国人が少なくて、いざ行くと「良く来てくれたな」みたいなウェルカム精神だったので、ぼったくりなんかもないし、すごく住みやすかったです。

江川:案件での初代の隊員というと、皆さん最初は結構苦労されたり、課題を見つけるまでの土壌を耕すのに時間がかかるといった話も聞きますけど、門川さんはいかがでしたか。

門川:初代じゃないのを経験してないから分からないですけど、でもコーヒーの素地があったから、それが共通言語だったので何とかなったかなと思いますけど、周りの隊員の話を聞いていると、自分はすごく協力隊らしくないことをしているんです。結構専門職よりというか、だから何とかなったというのはあると思います。

江川:コーヒーのことを知っていないとやっぱりできない活動でしたか。

門川:そうですね、全くできないです。要はそれぞれの生産者が作るコーヒーがどれくらい美味しいか分からないと何の仕事にもならないですね。

江川:なるほどそうですね。全部飲んでも同じ味にしか感じなかったら、売り込もうにも伝えようがないということですね。

門川:農業のことは僕も分からなかったから、勉強したかったので住みながら勉強していましたけど、基本的に品質評価とかその辺りは日本にいたときにやっていたんですよ。そういうベースの知識があって、なおかつ、日本のインポーター(輸入業者)さんとかロースター(コーヒー豆の焙煎業者) さんとかと元々の繋がりがあったから発信もできたし、現地にいる間に30人くらい日本からきているんですが、観光隊員でもこれだけ呼べないと言われましたね。

全員:(一同驚き)

門川:だからコーヒーに関係ない人がたまたま割り振られた人が行っていたとしても、本当に何もできなかったと思いますね。

江川:もちろん門川さん自身が元々築いてこられた信頼関係があるから、日本からも来ていただいて、門川さんのいる場所をぜひ見たいから行く、ということに繋がっているんでしょうね。

門川:そうですね、それは良かったです。当時のJICAエルサルバドル所長もびっくりしていました。JICAの中でも「こんな尖った案件誰が来るねん」みたいに思ってたらしいですけど、まぁまぁちょうどいいやつが来たでみたいな。

全員:(一同笑い)

畑中:案件が尖っているというのは、粗削りというかどうやってそんなの実現するのっていう感じですか。

門川:その、案件にはまる人がいないということですね。

江川:あまりにもピンポイントすぎるという感じなんですかね。

門川:そうそう、これに適性がある人というのがあまりいないですよね。スペイン語も一年ぐらい南米にいたので少しは喋れましたしね。

江川:訓練所で一から語学を学ぶ人に比べて、語学の面でもかなりのアドバンテージがあったんですね。これまでの経験や語学の素地などを生かせるから、活動についても最初からギアをぐっと入れながらできることがあったということですね。

門川:はい、できましたね。楽しかったですね。

(第3回へ続く)