学びがつなぐ、バンサモロの未来 ― JICA人材育成事業を通じた二人のストーリー ―
2026.04.24
長年にわたり紛争の影響を受けてきたフィリピン・ミンダナオ島のバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM:Bangsamoro Autonomous Region in Muslim Mindanao)では、人材育成が社会の安定と発展に向けた重要な鍵となってきました。JICAは、技術協力を通じ、行政人材および民間人材の能力向上を継続的に支援しています。
今回、JICAの技術協力による研修に参加した経験を持つイェドさんとロニーさんにお話を伺いました。
それぞれ異なる立場・時期で研修に参加してきた二人が、自身の歩みや日本での研修経験、現在の活動、そして将来への思いを語ってくださいました。
JICAの研修を通じての経験を語ったイェドさん(左)とロニーさん(右)
イェドさん
私は北コタバト州ピキット町の出身です。幼少期、この地域は「All-out War(全面戦争)」の影響を強く受けており、7歳のとき、家族とともにコタバト市へ避難しました。当時のピキットでは、子どもであっても身を守るために銃の扱いを学ぶ必要があるような環境でした。
その中で、父は「銃」ではなく「教育」を選びました。家族で避難するという決断は簡単ではなかったと思いますが、この選択が、私の人生の方向性を大きく変えたと感じています。
ロニーさん
私はコタバト市で生まれ育ちました。幼少期に通っていた学校の校舎は、日本の支援によって建設されたものでした。当時は特別な意味を意識していませんでしたが、振り返ると、日本の支援は私の教育環境の一部として、自然な形で存在していました。
イェドさん
2023年に、技術協力プロジェクト「バンサモロ自治政府能力向上プロジェクト(CDPB: Capacity Development Project for Bangsamoro)」を通じて行われた産業振興・起業家支援におけるTraining of Trainers(ToT)研修に参加しました。
さらに2024年には、本邦研修に参加し、JICA関西センター(大阪)で約1か月間、研修を受けました。
紛争の中で避難民として育った自分が、数十年後に地域を代表して日本で研修を受けることになるとは、若い頃には想像もしていませんでした。
日本では、多様な行政機関、企業、施設、工場を訪問し、それぞれの管理や運営の在り方を学びました。
JICA関西センターでの研修を修了したイェドさん(右) とBARMMから研修に参加した行政職員・起業家たち
広島大学で研修を受けたロニーさん(中央)
ロニーさん
私は2016年に、広島県及び広島大学が実施した草の根技術協力「フィリピン・ミンダナオのバンサモロ自治政府人材育成強化事業」の研修生として日本を訪れました。
JICA支援の学校で学び、日本で研修を受ける機会を得られたことは、私にとって 「夢が叶った」出来事でした。
日本では、行政運営、予算策定、組織のシステム化、タイムマネジメントなど、多くの実務的な学びを得ました。
イェドさん
日本で学んだ、組織の管理や運営の考え方は、現在の自分のビジネスにも取り入れています。
研修後は、日本政府が支援する無償資金協力「バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域における私有の小型武器及び軽兵器の管理・削減支援計画」(ASPIRE:Assistance for Security, Peace, Integration, and Recovery for Advancing Human Security in BARMM、国連開発計画(UNDP)との連携)の支援対象地域であるバシラン州において、元戦闘員(MILF、MNLF、アブサヤフ等)の家族(特に女性)を対象にパン作りの技能訓練を無償で行っています。
また、個人として、バンサモロ地域内の中小企業や起業家に対する無利子の資金援助にも取り組んでいます。返済された資金は次の支援へと回し、支援が循環する仕組みを意識しています。
ロニーさん
私は、国連職員としてミンダナオ和平支援に携わり、現在はASPIRE事業を担当する中で、研修で得た視点や知識を日々の業務に活かしています。
特に、研修で学んだ「どのように実現可能な形にするか(how to make it feasible)」という考え方は、業務を進めるうえで重要な視点になっています。
紛争影響地域では、人材の能力や知識が限られていることが、銃への依存や社会の不安定化、開発の遅れにつながると感じています。だからこそ、人材育成は非常に重要です。
ASPIRE事業を通じて回収された武器でつくられた「平和の柱」
イェドさん
JICAの支援によって、地域で開発が進み、人々が「平和の配当」を感じられるようになったと思います。
活動を続ける中で、「武器は生活を良くしない。生活を良くするのは研修や教育だ」と考える人が増えてきた変化を、日々実感しています。
将来的には、バンサモロが日本のように、自分たちの文化や歴史を大切にし、それを土台として社会の仕組みが機能し 、誠実さが重んじられる地域になることを願っています。観光客が安心して訪れることができるほどの平和が実現してほしいと考えています。
ロニーさん
JICAの支援は、日本のやり方を一方的に押し付けるものではなく、バンサモロの文脈を十分に踏まえたアプローチだと感じています。
ドナー支援はいずれ終わります。その段階に備え、またそこへ至るためにも、持続的に機能する制度や仕組みを築き、自らの力で社会を支えて行けるようになる必要があります。将来は、バンサモロから日本へ恩返ししたいと考えています。
イェドさん
私にとっての平和は、「恐怖を感じずに生きること」です。
ロニーさん
私にとっての平和は、コーヒーを飲みながら、満ち足りた気持ちで座っている、そんなひとときです。
平和は、私たち自身の内側から始まるものだと思います。
人材育成は、即座に成果が見える取り組みではありません。
しかし、学びを得た人材が社会に還元し、その変化が次の世代へとつながっていく――
そうした積み重ねこそが、バンサモロにおける持続的な平和の基盤となっています。
JICAは今後も、人材育成を通じて、バンサモロの人々が自らの力で未来を切り拓く歩みを支援していきます。
大阪万博を通じてフィリピンの未来を形作る!(第2回)ミンダナオ和平に取り組むBARMM研修員の想いをインタビュー | 海外での取り組み - JICA