デザインの視点で、売れる観光商品開発を!~長岡造形大学が取り組んだ「デザイン×国際協力」の新たな可能性とは~
2025.06.04
公立大学法人長岡造形大学は、ラオス北部に位置するシェンクアン県にて、2022年10月よりJICA草の根技術協力事業「デザインプロセスを活用した持続的な観光商品の開発及び質向上プロジェクト」を実施しました。シェンクアン県は、2019年に世界遺産に登録された「ジャール平原の巨大石壺遺跡群」を有する一方で、ベトナム戦争時代に受けた激しい空爆により今なお不発弾問題が色濃く残る地域でもあります。住民の多くは農業を営んでいますが、不発弾汚染による農地不足から、彼らの平均年収は極めて低い状況です。本事業ではこの地にある蜂蜜や茶葉、織物といった観光資源を活用し、デザインの視点から長岡造形大学が技術支援を行ってきました。
シェンクアン県中心部の風景
ラオスで3番目に世界遺産登録されたシェンクアン県の「ジャール平原の巨大石壺群」
▼本事業概要やデザインプロセスに関する詳細説明はこちらから!
・「国際協力×デザイン」でラオスの観光産業を活性化したい! | 日本国内での取り組み - JICA
▼関連リンク
・長岡造形大学URL:公立大学法人長岡造形大学 (nagaoka-id.ac.jp)
・長岡造形大学Facebookページ:長岡造形大学 | Nagaoka-shi Niigata | Facebook
・本プロジェクトのFacebookページ:Champayayam project | Facebook
デザインプロセスとは、「使用者や購入者の視点から対象の問題を理解し、解決に導く手法」として、社会課題解決に用いられる考え方です。本事業では、まさに住民自らが「観光客に求められる商品とは何か」を考え、開発できるスキルの習得を目指しました。活動では、消費者ニーズを探るため、観光客向けのアンケートや展示会を実施。これにより、「観光客に求められる商品やパッケージはどのようなものか」を住民たちと一緒に考えてきました。村の住民たちは、観光客から直接聞き取れた生の声に触れ、「パッケージデザインを工夫することで実際の販売に繋がること」を理解し、観光商品開発時の重要なポイントを学んできました。
ラオス国内の観光先進都市で扱われる観光商品や生産者を見学
シェンクアン県中心部で開催された商品展示会の様子
活動の中盤以降には、本事業を通じて開発される観光商品を住民の直接的な収入に繋げる取り組みも進められました。そこで注目されたのが、村の各家庭に眠っていたラオスの伝統衣装スカート(シン)。ラオスならではの模様や柄が刺繍された古着スカートの生地を活用し、アップサイクル商品としてトートバックやコースターを開発。現在では、シェンクアン県内の6か所でのパイロット販売を行うまでになり、住民にとって新たな収入を生み出しています。
古着のスカートを活用したアップサイクル商品の売上は、平均農業収入の3分の1ほどに
より魅力的な商品の生産に向け、住民とも丁寧な意見交換を行ってきました
さらには、より多くの住民が観光商品開発・生産に携わることが出来るよう、住民が描くシンプルなデザインを活用したパッケージ「Brut de sign」も考案されました。住民がサインペン一つで自由に線や渦巻き、商品等を描いたイラストを生産品のパッケージとして採用することで、蜂蜜や茶葉生産に必要な特別な設備を有していない住民も、パッケージデザインという切り口で観光商品の生産プロセスに関わることを可能にしました。
住民が描いたシンプルなイラストを採用した「Brut de sign」パッケージの例
活動の終盤では、住民たちが抱く本事業や村そのものへの思いを反映したブランドロゴの作成も。自身の地域がブランド化されていく過程は、「自分たちの商品」としての愛着・誇りをもたらし、住民自身は地域の価値を再認識することが出来ました。
住民が描いたシンプルなイラストを採用した「Brut de sign」パッケージの例
住民の思いをブランドロゴとして形に
これらの成果に繋がった背景には、長岡造形大学のメンバーが現地の住民たちの思いに常にしっかりと寄り添い、丁寧に向き合ってきたからだと言えます。住民たちの状況を理解するため、ワークショップでは、言葉や文字でのコミュニケーションだけに頼らず、ボディランゲージや寸劇、イラストを使った「ノンバーバルコミュニケーション」を積極的に活用しました。このような工夫を重ね、彼らの思いと向き合って関係性を築いてきたからこそ、もたらされたインパクトではないでしょうか。
住民たちの思いを引き出すシステムコーチングのワークショップ風景
▼上記に関連するこれまでの取り組み詳細はこちらから!
・「秘境の国ラオス」デザインプロセスを活用し観光商品の開発へ! | 日本での取り組み - JICA
・村人たちの手による観光商品開発を!~デザインの知見を活用して長岡造形大学が取り組む、ラオスの観光産業活性化プロジェクト~ | 日本国内での取り組み - JICA
現地では活動の集大成として、2025年3月末に関係者が集まり、クロージングセレモニーが開催されました。このセレモニーでは、「簡単な線を引く」練習から始まったプロジェクトの始まりから、いまや村の「ブランドロゴ」を使った観光商品を販売するまでに至った過程が振り返られ、プロジェクトの成果が共有されました。村の住民からは「長岡造形大学のメンバーと一緒に、このプロジェクトに参加でき、村の商品がブランドのようになった」、「家のタンスに眠っていたスカートを商品として買ってくれる人がいるということに驚いた」という声や、「パッケージデザインが変わるだけでこんなにも印象が変わることを体感できた。シェンクワン県の他の地域にも広がっていってほしい。」といった意見も述べられました。
住民らや現地関係者が集まったクロージングセレモニーでの商品展示の様子
最後に、本事業のプロジェクト・マネージャー 長岡造形大学の板垣順平先生と現地調整員として事業開始時から携わった三井琳世さんからのメッセージをご紹介します。
三井さん:
ラオスでの経験は、私にとって本当に貴重なものでした。現地調整員として、とにかく心がけたことは、「信頼関係をしっかりと築くこと」、そして「相手の気持ちに寄り添った丁寧なコミュニケーション」です。
プロジェクトの途中では、予期せぬ状況やラオスならではの文化的な背景から、活動が前に進まない時期もあり、国際協力の難しさを痛感しました。そのような経験から、現地の人々との意識のすり合わせやラオス文化を尊重した柔軟な調整、そしてプロジェクトメンバー間での密な連携がいかに大切か、身をもって学びました。特に、困難な状況下で力強くリーダーシップを発揮してくれた現地スタッフ・ウイさんの存在は、本当に心強いものでした。デザインスキルを身につけて収入に繋げていく村人の姿や、商品開発に真剣に取り組む彼らの熱量を間近で感じられた時は、現地調整員としてやりがいを感じる瞬間でした。
現地調整員として本事業に参加し、村の住民たちと活動を進めてきた三井さん。(写真右)事業実施中は、長岡造形大学の大学院生でした。
板垣先生:
このプロジェクトでは何もかもが初めてでしたが、デザインを軸とした考え方で、現地の人々が求めていることに向き合い、柔軟にプロジェクトを進めることが出来ました。そして何より、現地調整員としてこのプロジェクトを進めてきた三井さんをはじめ、関わってくれた長岡造形大学の学生たちがこのプロジェクトをつくりあげてくれたと考えています。もちろん、大変なことや苦労は多くありましたが、そのたびに現地スタッフのウイさんをはじめ、カウンターパートや村人たちと悩み、考え、試行し、ともに成長させてもらえたのではないかと思います。今後もこのプロジェクトでの学びや経験を生かし、さらに多くの村人や学生の糧となる経験に繋げていきたいです。
本事業のプロジェクト・マネージャー 板垣順平先生(写真右)
観光商品のパッケージ開発を通してシェンクワンの人々にもたらされた新しい変化。これは、「現地の人々が求めていることは何か」に向き合い、デザインの大学として出来ることを真摯に考えてきたからこそ生まれた素晴らしい成果と言えます。「国際協力×デザイン」の新しい可能性にこれからもご注目ください!
現地調整員の三井さん(左)と現地スタッフ・ウイさん(右)とのオフショット。溢れる笑顔がこのプロジェクトの成功と素敵な関係性を物語っています。
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