【JOCV60周年×研修実施報告】JOCV経験者が活躍!次なるパンデミックへ向けた研修の挑戦
2025.12.22
今年はJICA海外協力隊発足60周年の節目となります。
これまで海外協力隊(JOCV:Japan Overseas Cooperation Volunteer)として開発途上国の現場で課題解決に取り組んできた隊員は、帰国後様々な場所で活躍しています。JICAが長年実施している本邦研修においても帰国隊員達が活躍しています。今年度次なるパンデミック発生とその対応を視野に入れて実施された研修をご紹介します。
JICAは、新型コロナウイルス感染症などへの対応能力を強化し、人々の生活の基盤となる健康を守る体制作りを推進するため、「JICA世界保健医療イニシアティブ」に重点的に取り組んでいます。様々な国から研修員を受け入れる課題別研修「最前線の防衛:アウトブレイクと検査室ネットワークの管理」は、新たな呼吸器感染症によるパンデミックが発生した際、人の命・生活を脅かす感染症の拡大を最小限に制御することを目指して今年度実施されました。
この研修のコースリーダーとして研修員の指導をしているのが(公財)結核予防会結核研究所の松本宏子さんです。
研修員へ培地づくりを指導する松本コースリーダー(左) 「写真提供:結核研究所」
松本コースリーダーは 1992年に臨床検査技師隊員として、西サモア(現サモア国)へ派遣されました。(平成4年2次隊)
赴任先の国立病院では、結核菌検査方法確立のために活動しました。当時赴任先では、塗抹検査を実施していましたが、松本さんは病院の検査技師が結核菌培養まで出来るようサポートを行い、発育した菌株をニュージーランドに輸送するためのシステムの構築に尽力しました。そのシステムにより、結核菌の診断(菌がいるかどうか)だけでなく、薬が効くかどうかの検査である薬剤感受性試験の結果をニュージーランドから得ることができるようになりました。
松本さんは現地での活動を通じ、カウンターパート(赴任先の同僚)のモチベーションを下げないように、サポートをすることの難しさを経験するとともに、さまざまな実験機材や資材が無いことをただ嘆くのではなく、そこにある機材を使って出来ることを考え、試してみることの大切さを学びました。赴任中、蒸気消毒器であるコッホ窯を使って結核菌用培地を作成してみるなど、通常培地作成に使わない機材を転用するなどして工夫しながら活動をしました。帰国後は国内外で熱帯医学を学び、結核高蔓延国での結核菌検査技術移転に従事してきました。
松本さんが課題別研修のコースリーダーを務めて今年度で18年目になります。昨年度までは結核菌を扱うコース、今年度からは感染症全般を扱うコースになりましたが、一貫したコースの特徴は、研修員一人一人のレベルに合わせたきめ細やかな支援と、研修員のニーズや知識・技術レベルに合わせて毎年研修内容を調整していく、まさに生きた研修を実施している点です。
Logistics講義の様子「写真提供:結核研究所」
2025年度の「最前線の防衛:アウトブレイクと検査室ネットワークの管理」は8ヵ国12名を受け入れ実施されました。今回より新たに「アウトブレークマネジメント」、「AIと感染症対策」、「日本のコロナ対策の特徴と教訓」といった講義が追加されました。
コースリーダーに今年度力を入れた点、印象に残ったことについて聞きました。
力を入れた点
「内容が結核対策から感染症対策及び検査室強化へ大きく変わったため、研修員のバックグラウンドが多岐に渡るようになりました。そのため、研修員選考の面接時から、それぞれの研修員の得意な点や実績を聞き取り、他の研修員に共有するセッションを加えるなど、これまで以上にKnowledge Co-Creation Program (KCCP)の実践を意識しました。」
印象に残ったこと
「本年度はアウトブレークマネジメントもメインのコンテンツとして含まれていますが、とても予算化し難い部分でもあります。そのため、最新のビジネスの考え方であるエフェクチュエーション
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の講義から、自分たちの「手中の鳥」(現状あるものでできること)から考えるという思考・行動様式の講義を実施し、それが研修員に響いたようでした。今年度はこの講義を導入した意義を強く感じました。」
松本コースリーダーからはまた、次年度に向けた抱負が語られました。
「それぞれの国によって、状況は様々で、これをすれば正解というガイドラインは存在しない複雑な世界に私たちは住んでいます。その中で、講師側からだけでなく研修員同士も学び合うことで、より良い選択に気づき、その選択を重ね続け、現段階の自国でのベストプラクティスを探索することの重要性、その方法を伝えていきたいです。」
本研修では、コースリーダー以外にもファシリテーターと呼ばれるサブコースリーダーが3名おり、全員JOCV経験者です。途上国での経験を活かし、現在は専門的な立場から研修員の指導にあたっています。JOCV経験者達の次なるパンデミックに向けた研修の挑戦は今後も続きます。
General Microbiologyのクラス 「写真提供:結核研究所」
1エフェクチュエーション:バージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー教授が提唱した意思決定理論。従来の意思決定は、未来を予測し目標を立ててバックキャスティング的に行われる「コーゼーション」と呼ばれるアプローチが一般的であった。これに対し、エフェクチュエーションは、未来は予測不能であるという前提のもと、所与の資源や手段を用いて、結果を創り出していくことに重きを置くアプローチ。
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