JICA緒方研究所

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実証研究をもとにカンボジア経済の脱ドル化への示唆を現地で発表-小田島研究員ら

2016年12月8日

JICA研究所がカンボジア中央銀行と共同で行っている研究プロジェクト「カンボジアにおける自国通貨利用促進に関する実証研究」の成果を発表するセミナーが2016年10月20日、カンボジアの首都プノンペンで行われました。この研究は、カンボジア経済の‟ドル化”の背景と要因を家計、企業、銀行レベルのデータを用いて探り、現地通貨リエルの利用を促進する政策に示唆を与えることを目的としています。

質問に答える登壇者たち
質問に答える登壇者たち

当日は政府関係者や現地の銀行、大学やその他の研究機関の研究者など約250人が出席し、カンボジア国立銀行のネウ・チャンタナ副総裁とJICAカンボジア事務所の安達一所長が開会のあいさつをしました。JICA研究所の小田島健上席研究員と、研究プロジェクトの共同研究員、相場大樹元JICA研究所研究助手(日本学術振興会DC2、一橋大学大学院博士課程)とカンボジア国家銀行の4名が発表を行いました。

セミナーでは、カンボジア国家銀行のPagna Sok調査・国際協力部課長代理が研究プロジェクトの概要を説明し、今回のセミナーの意図を述べました。Pagna課長代理は「本研究プロジェクトでは家計・企業・両替商に対し2014年10月から2015年1月の間にカンボジア全土を対象に2273戸の家計、856社、82の両替機関(両替商)から聞き取り調査を行った。そして、銀行業では2015年4月から7月の間に現地の商業銀行とマイクロファイナンス機関15行を対象に支店レベルで財務データを集めた」と研究の全体像を述べました。

発表する小田島上席研究員
発表する小田島上席研究員

小田島上席研究員は家計の研究結果を発表し、カンボジアの家計における収入、支出、資産、借入それぞれにおけるドルの割合が家計の所得レベル、地域レベルで異なることを示しました。概してプノンペンやシェムリアップといった都市部でのドル利用が高いのに対し、地方部では低めの傾向がみられました。ただ、マクロ指標で測ったドル化比率で想定される高度のドル利用は見られず、外貨から頻繁にリエルに両替をして利用している実態が分かりました。ただ、借入についてはドルの比率が圧倒的に高く、一部の家計には収入通貨とのミスマッチが生じ、為替リスクにさらされていることも分かりました。そのような実態を背景に大半の家計が政府の推進するリエル利用促進を支持していることも分かりました。

発表する相場元研究助手
発表する相場元研究助手

相場元研究助手は銀行15行の約550支店から集めた財務データを使用して、カンボジアの金融ドル化の現状、全体の時間的な推移と地域レベルでの変化を示し、そこから考えられる要因について説明しました。また、地方ではマイクロファイナンス機関を中心に現地通貨リエルでの預金が増えていることを指摘しました。そして、「カンボジアの銀行では、都市で集まったドルを地方の支店へ配分することは行われているが、都市で集まった現地通貨を地方の支店に配分することは行われていない。現地通貨を地方に配分するインセンティブを与えることが必要である」と述べました。

Ranareth Tha課員のカンボジア企業に関する研究については、約870社のデータを用いて成果が発表され、企業では家計よりもドル化が進んでいること、また地方ではドル通貨と現地通貨の収入と借り入れの間、収入と支出の間に通貨のミスマッチがみられ、為替リスクを抱えている企業が多いと考えられることが分かりました。

Soklong Leng課長代理は、両替機関(両替商)の研究に関連して、実質、外為マーケットに銀行が参加していないカンボジアでは、両替機関(両替商)の行動が企業等のコストに影響を与え、結果、外貨・現地通貨の利用度合いに影響力を及ぼしていると指摘しました。

Vouthy Khou調査・国際協力部長は、これまで政府が実施してきたリエル利用促進について整理しつつ、今回得られた結果からより具体的な施策の可能性についても指摘。賃金支払いのリエル化、価格表示のリエル化、リエル高額紙幣の発行、金融機関のリエル貸出促進、リエル利用促進を通じた家計の金融包摂促進、ファイナンシャルリテラシーの促進、リエルの為替リスクヘッジ手段の提供などについて言及しました。

質疑応答では、「脱ドル化を進めると国外からの直接投資などの資金流入が落ち込むのではないか」という質問に対し、小田島研究員が「それもあり得るが、ドル化はマクロ的にみるとメリットとデメリットの両方が考えられる。脱ドル化は急進的な政策ではなく、長期的な展望に立ち、段階的に達成することでダメージを少なくすることが重要である」と答えました。また、今後の調査の計画や中央銀行等のキャパシティーのさらなる強化の必要性についても触れました。

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