JICA緒方研究所

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開発協力とグローバル人材育成の関係を探る—第8回青年海外協力隊(JOCV)研究セミナー開催

2017年7月6日

岡山国際交流センターで研究発表に耳を傾ける参加者
岡山国際交流センターで研究発表に耳を傾ける参加者

JICA研究所は2017年 6月12、13日の2日間にわたり、岡山県で第8回青年海外協力隊(JOCV)研究セミナー「開発協力とグローバル人材育成のあいだ」を開催しました。

JICA研究所は、心理学、社会学、人類学、政治学などの学際的研究を通じて青年海外協力隊事業の多面的な特徴を捉えて分析する研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」の成果を、これまで7回の公開セミナーで発表してきました。8回目となる今回は、東京以外での開催としては、第4回神戸、第6回仙台に続き3度目であり、中国地方で初めての開催となりました。

岡山国際交流センターで開催されたセミナー1日目は、協力隊に比較的関心の高い層や有識者に向けて研究成果を伝えました。

岡部恭宜JICA研究所客員研究員(左)と大貫真友子JICA研究所研究員が発表
岡部恭宜JICA研究所客員研究員(左)と大貫真友子JICA研究所研究員が発表

まず、岡部恭宜JICA研究所客員研究員(東北大学教授)が、協力隊発足当初の歴史をひもとき、なぜ協力隊事業が始まったのか、なぜその目的が多様なのかを確認しつつ、冒頭、自ら発した「協力隊はボランティアなのか?」というテーマに対する考察を披露しました。また、意識調査に基づいて隊員の人物像を類型化した共同研究の結果を「6つの協力隊員像——応募動機による隊員の類型化」として発表。協力隊員像の類型のうち、「国際協力志向型」と「慈善志向型」は開発協力、「ビジネス志向型」と「自己変革志向型」は青年育成、「好奇心志向型」は国際交流というように、それぞれの人物類型が協力隊事業の3つの目的と整合性が取れていることを述べました。

続けて大貫真友子JICA研究所研究員が、「青年海外協力隊のキーコンピテンシーとボランティア活動の達成と効果」と題した発表を行いました。この研究は、協力隊の活動を通じて隊員にどのような変化があったかを探り、グローバル人材育成の観点から協力隊事業の分析を試みたものです。大貫研究員は、派遣前、派遣中、帰国時の3時点で、隊員のコンピテンシーとして率先力、交渉力、適応力の変動を調査した結果、もともと率先力が高く、活動前半に交渉力を向上させ、全体を通して適応力を向上させた隊員がより活動目標の達成を成し遂げていたことなどを明らかにしました。

これらの発表に対し、司会を務めた畝伊智朗吉備国際大学教授はJICAの研究所だからこそ入手できた豊富なデータを使用した研究である点は特筆すべきであると評価し、「6つの人物類型やコンピテンシーをパネルデータで見ることで理解が深まった。また、人と人とをつなぐソーシャル・キャピタルの観点からも、協力隊が日本外交のソフトパワーを担っているといえるだろう」と述べました。質疑応答では、牧貴愛広島大学准教授から類型化とコンピテンシーの分析の関連性といった研究手法に関する質問があがるなど、活発に意見交換が行われました。

吉備国際大学で坂巻絵吏子JICA研究所職員が自身の協力隊の経験を共有
吉備国際大学で坂巻絵吏子JICA研究所職員が自身の協力隊の経験を共有

翌13日のセミナー2日目は、会場となった吉備国際大学の学生による参加が目立ちました。最初に協力隊経験者である坂巻絵吏子JICA研究所職員が登壇し、協力隊事業の基本情報のほか、2005年から2年間にわたるベナンでの活動や得たもの、帰国後の進路などを伝えました。続いて岡部客員研究員と大貫研究員が前日と同様、それぞれの研究について発表しました。会場からは、協力隊経験者が「協力隊の活動を通してネットワークの形成能力が身に付いた点に共感できた」と感想を述べたほか、現在求められている職種など事業に関する質問があがりました。

参加者との質疑応答は研究者側にも参考になる点が多く、昨年からスタートしたJICA研究所の研究プロジェクト「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成」にもフィードバックできる貴重なものとなりました。

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