カンボジア経済の“脱ドル化”に向けて現地で政策提言—奥田客員研究員、相場研究員

2019.04.08

2019年3月19日、カンボジアの首都プノンペンで開催されたJICA研究所とカンボジア中央銀行(National Bank of Cambodia:NBC)の共催セミナーで、JICA研究所とNBCの共同研究プロジェクト「カンボジアにおける自国通貨促進に関する実証研究」の成果の一部が発表されました。この研究プロジェクトでは、カンボジア全土を対象にした金融機関・企業調査および家計調査により得られたデータをもとに、同国経済のドル化の背景を探り、自国通貨リエルの流通促進に向けた有効な施策を検討しています。

各界からの参加者で会場は盛況となった

今回発表となったのは、2017年から2018年にかけて行った第2回家計・企業調査と第2回金融機関調査の結果です。家計・企業については、第1回調査(2014年10月から2015年1月)の対象を基礎に、2273戸と856社に対して2017年8月から12月までの約5カ月間、聞き取り調査を行いました。金融機関については、現地の商業銀行とマイクロファイナンス機関合わせて27行を対象に2018年5月から2019年2月の約10カ月間調査を行い、過去5年間の財務データ(支店レベル)を集めました。

家計調査の様子

セミナーには、政府関係者、金融機関関係者、大学関係者、研究機関関係者合わせて150人が参加。JICAカンボジア事務所菅野祐一所長による開会のあいさつに続いて、一橋大学大学院経済学研究科教授でJICA研究所客員研究員の奥田英信氏が登壇し、本研究プロジェクトについて紹介しました。

その後、NBCからSam Vichet研究員とHeng Chanhang研究員が登壇。家計調査、企業調査について、依然としてドル化が続くものの、家計も企業も第1回調査結果と比較して現地通貨の使用が増加しているとの結果を発表しました。

金融機関調査については、まず銀行調査結果を、同じくNBCからSeng Kimty研究員が発表。「銀行業では、自国通貨預金は実際に急速に伸びているものの、外国通貨預金も同様の速さで伸びており、自国通貨の比率は変わっていない。これは、近年の金融セクターへの資本流入とともに、ドル資金がカンボジア全土に銀行業を通じて広がってしまっていることが原因と思われる」と述べました。

次に両替商と為替市場の調査結果をアジア経済研究所の久保浩二研究員が発表。「カンボジアでは、大規模の輸入・輸出企業が通貨ミスマッチに直面していない一方で、国内の中小企業が通貨ミスマッチのリスクに見舞われている。そのことが銀行による為替業務の代わりに小規模の両替商が発達している一つの原因となっている」と述べました。

以上の調査結果発表の後、JICA研究所の相場大樹研究員が、第1回と第2回の調査結果を踏まえて、カンボジアでの自国通貨促進に向けた政策提言を行いました。相場研究員は「現地通貨促進のためには、供給サイドである金融機関への自国通貨使用を促進させる政策と共に、需要サイドである家計と企業への働きかけも重要である。特に家計の金融リテラシーの向上、企業の自国通貨建てでの会計リテラシ—の普及が必要である」と述べました。

最後に、NBCのNeav Chantana副総裁が閉会のあいさつをし、セミナーが終了しました。

今回のセミナーの様子は地元の大手新聞紙であるThe Phnom Penh Postでも報じられ、セミナーでの相場研究員の発言が取り上げられるなど、現地でも大きな反響がありました。

また、今回発表された研究成果の一部は論文として公表される予定です。

政策提言を行う相場大樹研究員

会場からの質問に答える登壇者たち(右から3番目が奥田英信客員研究員、2番目が相場研究員)

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