JICA緒方研究所

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名古屋大学大学院国際開発研究科で平和構築論を講義—サライヴァ研究員ら

2020年8月31日

JICA緒方研究所のルイ・サライヴァ研究員(上段中央)が名古屋大学大学院国際開発研究科で平和構築論を講義

2020年8月24~27日にわたり、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)のルイ・サライヴァ研究員が名古屋大学大学院国際開発研究科のオンラインでの集中講義に招へいされ、「平和構築論」の講義を担当しました。この講義では、平和構築理論の基本を示した上で、ますます複雑になるこの世界で、今日の国際的な平和構築アクターが平和への道筋をどう模索しているか掘り下げました。また、JICA緒方研究所の武藤亜子上席研究員もJICAの視点から見た平和構築と人間の安全保障について講義しました。

平和構築に結びつく多様な紛争分析アプローチ

近年、武力紛争は、長期化および複雑化して再発を繰り返し、さまざまな非政府アクターや紛争当事国以外の国家が関与する頻度も高くなっています。武力紛争、難民、国内避難民、民間人の死傷者の数が増えていることから、より効果的な平和構築が求められています。

サライヴァ研究員は、武力紛争の防止や解決へのさまざまな道筋を検証するための革新的な手法を説明しました。これらの手法の習得は、平和構築分野で活動する国連機関や二国間援助機関、非政府組織(NGO)、市民団体といった国際的な組織で必要とされています。まず、ノルウェーの社会学者ヨハン・ガルトゥング氏が提唱した、和平調停・平和維持・平和構築をつなげるという概念的な枠組みを紹介。この枠組みは、物理的な暴力が発生していないことを指す「消極的平和」と、平和的な社会を創出し維持する姿勢、組織および体制を指す「積極的平和」の対立の解消を目指すものです。サラエヴァ研究員は、「これまで平和構築アクターは、紛争の原因や原動力を理解し、それらをどのように修正するかを試みていた。しかし、国連の『平和の持続アジェンダ』では、単に戦争が発生していない状態よりもはるかに複雑な『積極的平和』の推進に改めて焦点を合わせている」と指摘。そして、紛争の影響を受けている社会の複雑な側面や、その社会で何がすでに機能し、何を強化できるのか特定することで、標準的な紛争分析アプローチを補完していくよう講義参加者に促しました。

また、平和構築のプロセスにどの程度現地の当事者が関わっているかというオーナーシップを検証したほか、人道支援・開発支援・平和構築の連携、急速に変化する情勢に対応するために変化する支援の在り方といったテーマも扱われました。さらに、「自由主義的平和構築(Liberal Peacebuilding)」のような固定的に設計された理論的アプローチと、「ボトムアップ型平和構築(Bottom-up Peacebuilding)」や「ハイブリッド型平和構築(Hybrid Peacebuilding)」、「適応型平和構築(Adaptive Peacebuilding)」を含む文脈に応じた理論的アプローチの違いにも触れました。国連安保理決議第1325号と第2250号の施行に関する国際的な研究を踏まえ、平和や安全保障の問題はジェンダーや年齢に沿った観点も不可欠であることから、平和構築における女性や若者の役割についても議論しました。

ケーススタディーをもとに大学院生たちと意見交換

この講義に参加した修士課程の6人の学生は、サライヴァ研究員が紹介した紛争分析モデルや平和構築理論を踏まえ、自分たちの研究を発展させてケーススタディーを発表しました。そのテーマは、ジョージアでエスカレートした内戦と同国での民族主義の台頭や民族間の安全保障のジレンマとの関係性から、リビア国民会議プロセスを通じた女性の平和構築アクターの可能性、フィリピン・ミンダナオ和平プロセスと紛争影響地域での多様なセクターからの開発ニーズへのJICAの対応、シリア内戦の和平プロセスにおいて最大の障壁となっている複雑性と平和構築の環境づくりにおけるNGOや地域団体の役割、イエメンでの和平調停と人道支援、タイ最南部で発生中の内乱とコロナ禍での一時停戦などを含む平和へのイニシアチブまで、多岐にわたりました。

平和構築と人間の安全保障のつながりやJICAの貢献

JICA緒方研究所の武藤亜子上席研究員は、人間の安全保障とJICAの貢献について講義

武藤上席研究員は、人間の安全保障とJICAの貢献について講義しました。まず、人間の安全保障は、欠乏や恐怖からの自由、尊厳および生存などに関する懸念を含む点、また、弱い立場に置かれている人々や脅威の源が人間の安全保障上の政策枠組みにとって最重要課題であるという点を強調しました。経済・健康・環境などに関わる制度あるいは物理的・社会システムなどから脅威が派生することを踏まえると、保護とエンパワメントを目的にし、人間を中心に据え、事例ごとの文脈に応じた予防重視型のアプローチが人間の安全保障には必要であり、人間の安全保障に対する日本のアプローチは人々の保護とエンパワメントに特に注力していると分析しました。

また、人間の安全保障に対するJICAの視点は、トップダウン型とボトムアップ型のアプローチを組み合わせ、多様なアクターとの連携とダウンサイドリスク(脅威によって状況が悪化するリスク)を管理しながら、分野横断型の支援の提供を目指していると説明しました。例としてヨルダンにおけるシリア難民支援を挙げ、JICAは教育プログラム、啓発活動、青少年向け活動、経済支援、インフラ復旧、診療所のサービス改善を通して、難民コミュニティーと受け入れ側のコミュニティー双方を支援していることを紹介。武藤上席研究員は、ヨルダンにおけるJICAの大規模な関与が、シリア難民の保護とエンパワメントを総合的に支援しつつ、同時に、受け入れ側コミュニティーでのダウンサイドリスクを予防できたことを示しました。また、ボトムアップ型とトップダウン型の手法の組み合わせが、人間の安全保障と平和構築の分野を広く巻き込んだ多様なアクターの重要性の認識を促進する可能性も示しました。さらに、人間の安全保障は包括的で公正な人間開発も重視しているため、構造的・制度的な暴力の是正にも貢献すると強調。最後に武藤上席研究員は、「人間の安全保障は、紛争の影響を受けているコミュニティーで、その地域が持つ複雑な力学の認識を可能にし、積極的平和と持続可能な開発に貢献する」と述べ、講義を締めくくりました。

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