命や生活を守り、育む力を身につけるノンフォーマル教育の意義とは?プロジェクト・ヒストリー出版記念オンラインセミナー開催

2021.05.17

2021年4月14日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『未来を拓く学び「いつでも どこでも 誰でも」パキスタン・ノンフォーマル教育、0(ゼロ)からの出発』出版記念オンラインセミナーを開催しました。同書は、パキスタンでの15年以上にわたるJICAのノンフォーマル教育への取り組みに携わってきた大橋知穂JICA専門家が執筆したものです。

開会にあたり、JICA緒方研究所の牧野耕司副所長が「コロナ禍では、日本でも学習の機会を奪われた子どもたちが増えている。パキスタンの問題は日本にも共通であることを心に留めながら、インクルーシブな教育について深く考えたい」とあいさつしました。

まず、同書の著者で識字・ノンフォーマル教育・オルタナティブ教育が専門の大橋専門家と、144万人のチャンネル登録者を持つ教育YouTuberである葉一(はいち)氏の対談からスタート。葉一氏は経済的な理由で塾に行けない小学生から高校生のために、無料の授業をYouTubeで配信し、多くの子どもたちから支持されています。

プロジェクト・ヒストリーを執筆した大橋知穂JICA専門家(右)と教育YouTuberの葉一氏が対談

大橋専門家は「パキスタンでは世界ワースト2位となる2,280万人の不就学児童がいるが、小学校の最終学齢である10歳を超えると学び直しの機会がなくなる。それをノンフォーマル教育でカバーする制度を構築したり、学校に行っていなかった子どもたちの生活に役立ちつつ知識が身につく教材を作成してきた」とこれまでの自身の活動を紹介した上で、日本の子どもが置かれた現状について質問。葉一氏は、「不登校の子どもが増え、学校に行くのが当たり前という日本の環境では、行けないことが子どもたちの自己肯定感の低下につながっている」とし、「今の子どもたちは失敗をとても恐れる。チャレンジができないから成功体験も積めない。でも自分がYouTubeで『失敗しても大丈夫、そう考えている大人がいるんだよ』と発信するのも役割の一つだと思っている」と、活動に託す想いを語りました。また、葉一氏の「教育は子どもが主役」という言葉に、大橋専門家は「教育を提供することに私たちは集中してしまいがちだが、葉一さんは子どもや親に寄り添いながら双方向で活動しているので勉強になる。教育に携わる一人一人の個人の力も大きいし、一度失敗してもやり直せる仕組みづくりも必要なので、両方を組み合わせてパキスタンで活動していきたい」と共感を寄せました。

参加者から寄せられた大橋専門家と葉一氏へのさまざまな質問のうち、「子どもたちの自己肯定感を高めるには?」という質問に対しては、葉一氏は「叱るよりほめる」、大橋専門家は「パキスタンでの制度面でいえば、ノンフォーマル教育で学んだ子どもたちが公的な卒業証書をもらえて“認められた”と感じられたり、進学できる仕組みをつくる」と答えました。

続いて、JICA人間開発部の澁谷和朗課長がモデレーターを務め、大橋専門家、教育協力NGOネットワーク(JNNE)の三宅隆史事務局長、UNICEF東京事務所の根本巳欧副代表、JICA南アジア部の川谷暢宏課長が参加したパネルディスカッションが行われました。各パネリストは同書で印象に残った点を自身の活動にからめながら紹介し、一人一人のニーズに応える柔軟な教育やさまざまな機関や分野とのパートナーシップの重要性を確認しました。

さらに、参加者から寄せられた「コロナ禍で拡大している子どもの学び、若者、女性に関する課題にどう取り組んでいるか」という質問に対しては、JNNEの三宅事務局長は自身が所属するNGOのシャンティ国際ボランティア会の事例として、タイにあるミャンマー難民キャンプの学校が閉鎖されたため、運営を支援しているコミュニティー図書館を活用して学びの機会を提供していると紹介。UNICEFの根本副代表は、オンライン・オフライン双方を活用して柔軟に教育を提供する支援を行っていることや、保健・衛生など分野を超えた他のセクターと教育の連携の必要性、またJICAとUNICEFのマルチ・バイ協力の重要性を訴えました。また、JICAの川谷課長はコロナ禍による学習の中断に対しても、大橋専門家がプロジェクトで開発した5年間の小学校の課程を3年間で学べるといった学習モデルを活用できる可能性を挙げました。

さらに、「ノンフォーマル教育で提供する教育内容は正規の学校と格差はないのか」「ノンフォーマル教育を広めるためにどのように現地の行政機関を巻き込んだのか」「ノンフォーマル教育が広まっていない日本への示唆は?」といった多様な質問に対して議論が行われました。

ネパールからオンラインで参加した教育協力NGOネットワークの三宅隆史事務局長

UNICEF東京事務所の根本巳欧副代表

JICA南アジア部の川谷暢宏課長

最後に、JICA人間開発部の佐久間潤部長が「『いつでも どこでも 誰でも』という本書のタイトルの言葉が示すとおり、学びの選択肢があり、コロナ禍でも子どもたちが自己肯定感を持って学び、生きていく大切さ、彼らを支える大人の在りようを考えさせられた」と閉会のあいさつをし、セミナーを締めくくりました。

関連動画

プロジェクト・ヒストリー『未来を拓く学び「いつでも どこでも 誰でも」パキスタン・ノンフォーマル教育、0(ゼロ)からの出発』出版記念セミナー対談ダイジェスト版

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