トルコでの産業政策カンファレンスで研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の中間成果を発表

2021.10.26

2021年10月14日に「Smart Economic Planning and Industrial Policy 2021」(主催:OSTIM Technical University、トルコ)が開催され、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の研究成果がオンラインパネルディスカッション形式で発表されました。

パネルセッションでは、同研究プロジェクトからJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)、山口大学の天津邦明教授、国際労働機関(International Labor Organization: ILO)の森純一チーフ・テクニカル・アドバイザー、JICA緒方研究所の山田実上席研究員が登壇し、研究プロジェクトの概要とこれまでに得られた成果などを共有しました。

研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の研究者が発表

冒頭、セッションの司会を務めた天津教授から全体の主旨説明があり、本パネルセッションは産業政策や支援の在り方について、当事者のラーニングの観点から議論することが目的と述べました。そして、各パネリストに対して、「なぜ今、産業開発なのか」「翻訳的適応とは何か」「ドナーの視点から見た翻訳的適応とは」といった論点を提示しました。

最初のパネリストの大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、産業政策の今日的意義と、なぜこの研究プロジェクトで日本の産業開発と支援に着目しているのか、その理由について説明しました。また、研究プロジェクトの鍵となる概念である“翻訳的適応”について、「外国の知識や技術を自国の文化・慣習に合わせて内在化しながら適応する学習プロセスを意味する」と紹介しました。産業開発に取り組む国へのメッセージとして、日本や東アジアの奇跡に代表される過去の産業開発、政策支援の成功事例を参照するだけでなく、そうした過去の事例においてどのように産業政策を立案、実施してきたのか、その具体的方法論を学習し、自国の現在の文脈に照らして施策内容・制度を適応していく翻訳的適応の視点が重要と強調。また、ドナー側へのメッセージとして、受け手側の翻訳的適応を促すため、特定の産業開発経験の押し付けをするのではなく、知見共有という立場をとり、相手側の主体性に働きかけながら学習プロセスに伴走する姿勢の重要性も指摘しました。

次に、森チーフ・テクニカル・アドバイザーは、技能形成・職業技術教育・訓練(Technical and Vocational Education and Training: TVET)と産業政策の関連を説明し、技能形成政策と産業政策の擦り合わせの重要性を述べました。そして、自身が過去に携わったベトナムでの技術支援案件二つを紹介し、ベトナム側が考える国家技能検定の進め方が日本人専門家の考えと大きく異なっていたことや、ベトナム側が日本以外のドナーからも学びながら自国の状況に合ったスキル需要を把握する方法を検討していることを例にあげ、相手国の考え方に合わせて柔軟にプロジェクトを実施する重要性を共有。「こうした経験からも、翻訳的適応の考え方が開発に取り組むドナー側の視点として有用」と言及しました。

続いて、山田上席研究員は、同研究プロジェクトの事例研究として取り上げたアジア経済危機時のタイに対する産業政策支援(通称「水谷プラン」)における翻訳的適応の分析と、JICAの民間セクター開発分野の開発協力に携わってきた実務家としての翻訳的適応に対する考えについて述べました。タイの事例では、経済危機を受けて日本が実施した支援のうち、中小企業振興マスタープランと企業診断制度に着目し、タイ政府が承認したマスタープランに日本側の提案がそのままの形では取り入れられなかったり、診断制度が国家レベルでは確立しなかったものの「診断」の概念や手法がタイに根付いていたりすることが、タイ側による翻訳的適応のプロセスと捉えられると報告しました。こうしたタイの事例研究と、自身の実務経験から、翻訳的適応の効果的な促進のためには、相手国側の強いオーナーシップ・コミットメント、既存のリソースの有効活用、ステークホルダー間の連携、ドナーの触媒的役割や時代の変化に合わせた適応、そして何よりも関係者相互を結ぶ信頼が重要であることを指摘しました。

最後に、天津教授から、今回共有された事例をはじめ、研究の中間成果を取りまとめた書籍が2021年内に刊行予定であることを報告しました。また、大野シニア・リサーチ・アドバイザーは本カンファレンスの主催地であるトルコは新興国として興味深い産業開発経験を有しており、今後、知見共有の機会などを設けていきたい旨を述べて、セッションを終えました。

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