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複合的な危機に直面するアフリカで人間の安全保障が果たす役割とは?TICAD8に向けたUNDP・JICA特別フォーラムで議論

2022年8月4日

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向けて活発な議論が行われた

2022年7月13日、日本経済新聞社主催の「UNDP・JICA特別フォーラム 人間の安全保障とアフリカの挑戦 — TICAD8に向けて」が開催されました。世界情勢が混迷を極める中、「人間の安全保障」の概念の意義と可能性、また同年8月にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向けて活発な議論が行われました。

冒頭、国連開発計画(UNDP)の人間の安全保障に関する特別報告書ハイレベル諮問パネル共同議長を務めた武見敬三参議院議員と、林芳正外務大臣が開会のあいさつに立ちました。

続いて、アヒム・シュタイナーUNDP総裁と田中明彦JICA理事長による基調講演が行われました。シュタイナー総裁は、「気候変動や生物多様性の損失といった地球への圧力に直面する時代である『人新世』となった現在、先進国、開発途上国を問わず、人間の安全保障が脅かされている。気候変動やウイルスという国境を超えた脅威に取り組むためには、慈善ではなく、隣人の安全保障にも注意を払うグローバルな連帯が必要。分断と不信の中で残された時間は少ない。今までにない解決手法と世界の連帯が求められている」と訴えました。

基調講演を行った田中明彦JICA理事長

田中理事長は、「人間の安全保障の概念が生まれて30年が経つが、人々の命、暮らし、尊厳はかつてない危機にある。アフリカでは、新型コロナウイルス感染症で約3,000万人が貧困状態に陥り、さらにウクライナ危機が食料問題の不安を増大させ、従来からの脆弱な政治経済社会構造の上に新たな脅威が加わるという危機の連鎖にさらされている」と指摘しました。これらの複合的な脅威に適切に対応するためには人間の安全保障の視座が有効とした上で、脅威を①地震や津波などの物理システム、②感染症や飢餓などの生命システム、③武力紛争や構造的な貧困などの社会システムという三つのシステムに分類し、相互に作用し合う脅威に共通してとれる対策を考える重要性を説明。分野や課題を問わず協働し、国家、国際機関、民間企業、市民社会などの連帯が必要と述べました。

さらに田中理事長は、「人間の安全保障は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の基盤となる概念であり、2022年2月にUNDPが『人間の安全保障特別報告書』を、同年3月にJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)がフラグシップレポート『今日の人間の安全保障』を創刊したことは極めて象徴的」とその意義を強調。そして、JICA緒方研究所レポート「今日の人間の安全保障」の論考「今日の人間の安全保障と開発協力」を取り上げ、今後の開発協力で鍵となる三つのトランスフォーメーションを紹介しました。すなわち、第一に企業が利潤追求と社会貢献の双方を追求する共通価値の創造(CSV)トランスフォーメーション、第二に開発途上国で新技術が一気に普及・拡大する「リープフロッグ現象」といったデジタルの正の側面を開発協力に活用するデジタル・トランスフォーメーション、第三にNGOや企業などの非国家主体、国際機関、各国政府などの連帯を促進するグローバルガバナンス・トランスフォーメーション、です。最後に、「複合的な脅威により低迷する世界、アフリカ、そして日本のSDGsの進捗を、人間の安全保障という概念で回復の軌道に乗せていく。JICAは各アクターの触媒として、その実践に貢献したい。本日の議論がTICAD8に向けた一歩となることを願う」と語りました。

パネルディスカッションに登壇したJICA緒方研究所の高原明生研究所長

パネルディスカッションでは、大阪大学大学院の星野俊也教授、JICA緒方研究所の高原明生研究所長、国連事務次長補/UNDP総裁補兼危機局長の岡井朝子氏、シブサワ・アンド・カンパニーの渋澤健代表取締役が、今日の人間の安全保障に関する課題と脅威についてそれぞれの立場から意見を述べ、さらにアフリカにおける人間の安全保障の実践や官民連携でのインパクト投資の可能性についてなど、幅広い議論が行われました。高原研究所長は、「開発協力に関わる全てのアクターが尊厳を保ちながら対等な立場で連帯していくために、私たちを結び付けるのが人間の安全保障という思想。同じ人間として共感し合い、お互いにつながり合うことを可能にするこの考えを、活動の基礎として共有することが大切」と述べました。

最後に、近藤哲生UNDP駐日代表が閉会のあいさつに立ち、フォーラムは閉幕しました。

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