灌漑プロジェクトでの気候変動適応策の便益を評価:佐藤上席研究員がCOP27で発表

2022.12.19

JICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員が、11月6~20日にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議 (COP27) のサイドイベント「パリ協定達成に向けたJICAの気候変動対策 コベネフィット型気候変動対策の観点から持続可能な開発とのシナジーとトレードオフの理解を深める」に登壇しました。

JICA緒方研究所の佐藤一朗上席研究員

JICAが主催し、11月9日にジャパン・パビリオンで実施されたこのサイドイベントで、登壇者らは気候変動対策と持続可能な開発との関係について議論し、両者間のシナジー(相乗効果)とトレードオフについて理解を深めました。また、開発途上国における開発と気候変動対策の両方に便益を生み出すことができるコベネフィット型気候変動対策を通じたパリ協定の目標達成への取り組みについても議論されました。

適応策の便益は、さまざまな分野の開発プロジェクトによって実現されます。例えば、森林保護により気候変動の影響で悪化する洪水リスクが緩和され、流域機能が改善されます。これは、森林セクターにおける適応策の便益の一つです。ただし、適応策の便益は開発便益と深く結び付いていることが多く、区別することは困難です。

ケニアの灌漑開発プロジェクトで分析

佐藤上席研究員は、JICAがケニアで実施しているムエア灌漑開発事業(MIDP)のケーススタディ分析について発表し、このプロジェクトにおける気候変動適応策の便益を示しました。

その中で、気候変動の物理的影響は地域によって異なるため、気候変動適応策は当該地域の事情に応じたものでなければならないこと、また、仮に物理的影響が同等の場合でも、プロジェクトへの影響はその脆弱性次第で異なる可能性があることを指摘しました。従って、プロジェクトにおける適応策の便益の有無や程度を特定するには、プロジェクトに特化した分析を行うことが不可欠です。例えば、食料安全保障の向上に向けた灌漑インフラの開発は、気候変動によって増々不安定になる降雨量の変動に対する適応策として、概して効果的であると考えられています。しかし、気候変動の影響が不確実な状況で有効性を評価することは困難です。

この課題に対応するため、ケーススタディでは、不確実性の高い状況での計画と意思決定を支援する分析手法「Robust Decision Making Framework(頑健な意思決定フレームワーク)」を使用しました。佐藤上席研究員のチームは、2030年および2050年のムエア地域の米の生産高や農家の平均収入など、客観的な指標からプロジェクトの効果を分析しました。その際、不確実な気候条件と社会経済的要因についてさまざまな値を組み合わせて最大24,000通りの将来シナリオを適用。これらのシナリオが、どのようにプロジェクトに多様な結果をもたらすか、詳細に調査しました。

その結果、灌漑プロジェクトを行っていなかった場合、ムエア地域における将来の米の生産量は、今後の気候条件の変動に対してより脆弱になることが明らかになりました。一方、プロジェクトを行った場合でも、ムエア地域の米の生産量は気候変動による悪影響を受ける可能性が高いものの、変化の幅はプロジェクトを行わない場合よりもはるかに小さくなることが示唆されました。

つまり、このプロジェクトは将来の気候変動に対する米生産の脆弱性を軽減し、適応策としての便益をもたらすであろうと考えられます。佐藤上席研究員はこの分析手法にはいくつかの制約があるとしながらも、不確実な気候変動の影響を強く受けやすい大規模で長期的な開発プロジェクトに対しては、この手法を選択的に適用することが有効だと述べました。

この調査結果の概要は、JICA緒方研究所のプロジェクト「不確実性下における気候変動適応対策の経済的評価に関する研究」の研究成果として、ポリシー・ノート「How Could the Benefits of Climate Change Adaptation Be Incorporated into Economic Evaluation of Development Projects?」に掲載されています。詳細については、以下のリンクをご覧ください。

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