「日本における難民受け入れ〜支援団体の視点から〜」:「移住史・多文化理解オンライン講座 ~歴史から「他者」を理解する〜」2022年度第5回開催

2023.04.13

JICA緒方研究所とJICA横浜・海外移住資料館が共催する「移住史・多文化理解オンライン講座~歴史から『他者』を理解する~」の第5回のテーマは、「日本における難民受け入れ〜支援団体の視点から〜」。2023年3月2日、ウェビナー形式で開催され、認定NPO法人難民支援協会の石川えり代表理事が講演しました。「難民」とひと言でくくるのではなく、一人一人に固有の事情と物語があることを知り、そこに目を向けることで、多くの人が共感を持って取り組める支援の形があることを示しました。

認定NPO法人難民支援協会の石川えり代表理事

「難民」とは誰のことか

最初に、石川代表理事自身が難民問題に興味を持ったエピソードに触れた後、世界の難民の状況を概観しました。2022年5月現在、世界では1億人を超える人々が故郷を追われています。ウクライナ危機等により、難民の数は第二次世界大戦以降で最も多くなり、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が「あってはならない数」だと述べているほどです。

「難民」とはどういった人々を指すのでしょうか。難民条約上の定義では、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であることや政治的意見を理由に、迫害のおそれから母国に住めない人を指すとされています。ほかにも、性的マイノリティであることや、反政府活動をしているグループと同じ地域に住んでいるというだけで、国外へ逃れざるを得ない人々が大勢います。

別の言い方をすれば、国境を超える移動・移住のうち、最も非自発的な形が難民です。自発的な移動・移住の最たるものが海外旅行、次に仕事の海外赴任や留学などがあり、その対極に紛争・迫害・人権侵害などによる難民があるのです。この関係性を図示しながら石川代表理事は、「両者の間にはさまざまなグラデーションがあり、組み合わさったりするなど、一人ひとり多様であることを知ってほしい」と語ります。

日本での「認定」に立ちはだかる高い壁

次に石川代表理事は、日本国内の状況について説明しました。日本における難民受け入れの枠組みは、1978年から20年以上をかけて、合計11,319人のインドシナ難民を受け入れたことから始まりました。その後1981年に難民条約に加入し、2010年に第三国定住難民受け入れを開始、2017年からのシリア難民留学生受け入れと続いてきました。2022年にはウクライナ「避難民」の受け入れを開始し、2022年11月末時点で2,100人以上のウクライナ人が日本へ入国しています。

一定数の難民を受け入れてきているようにも思えますが、石川代表理事は現在の状況について、諸外国と比べると、日本は難民受け入れに極めて消極的であり、2021年の難民申請数2,413人に対し、難民認定数はわずか74名。認定率は0.7%(※)に過ぎず、60%を超える英国やカナダ、32%強の米国、約26%のドイツなどには遠く及ばない、と評価しました。
※2021年の日本の認定率について、右記の式に基づく。74÷(74+10928)=0.672…(約0.7%)
2021年の不認定数(10928):一次審査(4,196人)と審査請求(6,732人)の合計。国際的にこの算出方法が採用されており、この計算式による算出結果を示すもの。

ただし、難民に「認定」しないからといって、全面的に受け入れを拒んでいるとは言い切れない側面もあると石川代表理事は語ります。例えば、2011〜2020年におけるシリア出身者の庇護状況をみると、難民認定数は諸外国より低い一方、難民とは認定しないものの人道的な配慮を理由に在留を認める率(庇護率)は98%に達しています。本来保護するべき人に難民以外の形での在留を認めるというのが日本の特徴です。

難民不認定の理由で非常に多いのは「難民といえる状況にあるかの証拠が不十分」ということです。例えば、難民支援協会がサポートしたあるシリア人の男性は、民主化を求めるデモに参加したところ、警察に追われる身となり、日本に逃れてきました。再三、難民申請をしているのですが認定されません。デモの首謀者や中心的な人物ではなく、ほかの多くのデモ参加者が同じ境遇にあるため、彼固有の認定理由には当たらないという判断です。結局、難民として認定されず、家族を呼び寄せることができるようになるまでに2年半もの歳月を要しました。

難民認定のための審査に平均4年5カ月と非常に長い時間がかかるのも課題で、その間のセーフティネットが欠かせません。法的に不安定な立場にあるため住居確保が難しく、当然ながら日本語や文化にも不慣れで就労へのハードルは高く、生活は困窮しがちです。体調を崩して病院に行こうにも、日本語が不自由な場合には症状を説明することもできません。さらに、難民申請中でも在留資格がない場合には入国管理局の施設に長期収容されるリスクもあります。

日本の状況に対して石川代表理事は、「難民問題とは、難民の問題ではなく、難民を受け入れられない側の問題です」と語ります。これは代表理事自身、折に触れて読み返すという『難民問題とは何か』(本間浩著、岩波新書)にある言葉だと述べます。

一人一人のストーリーに思いをはせる

こうしたなか、難民支援協会では「難民の尊厳と安心が守られ、ともに暮らせる社会へ」をビジョンに掲げ、さまざまな側面から支援活動を行っています。2022年秋以降、コロナ禍での入国制限がほぼ緩和されたため、日本に逃れてくる人が急増し、同協会の事務所には毎日30〜40名もの人々が訪ねてくると言います。

では、私たちには一体、何ができるのでしょうか。一例として石川代表理事が紹介するのは、食を通じて難民問題に触れることです。難民の方に教えてもらって協会が編纂したレシピ本『海を渡った故郷の味』(トゥーヴァージンズ刊)を基に、全国10以上の大学の学食で世界各地のメニューが再現され、愛知県の南山大学は、コンビニとコラボしたお弁当2万4,000食を売り上げました。

石川代表理事が繰り返し語ったのは、「一人一人の難民にそれぞれのストーリーがあることを忘れないでほしい」という点です。「『難民』という大きな主語のまま語っても手触り感がなく、よく分からない集団といったネガティブなイメージがつきまといがちです」と、石川代表理事は懸念します。そして次のように締めくくりました。「食など身近な話題を通じ、日本に逃れてきている人たちが、自分と同じ人間なんだという当たり前のことを、いつも思い出してほしいです」。

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