JICA緒方研究所

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アフリカの紛争予防をテーマにシンポジウム、政治制度がカギ

2011年4月5日

JICA研究所は2011年3月10日、「武力紛争から国家建設へ」と題するシンポジウムを東京・市谷の研究所内で開催しました。当研究所はかねてから、「アフリカにおける暴力的紛争の予防」、「紛争影響国における国家建設」、「アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定性」などの研究プロジェクトを進めてまいりましたが、今回のシンポジウムではこれまでのこれらの研究成果を中間報告しました。援助関係者や地域研究者など総勢150人が出席しました。

 

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客員研究員 峯 陽一

連立政権は紛争回避に有効

 

最初に報告したのは当研究所の峯陽一客員研究員です。テーマは「南アフリカとジンバブエにおける不平等と紛争予防」。研究の視点として「水平的不平等」(集団間の不平等)、「政治制度の選択」(権力を分散させるか集中させるか)、「人々の意識」(アイデンティティと敵意はどうか)の3つをまず示したうえで、南部アフリカに位置する南アフリカとジンバブエの現状を比較しました。水平的不平等について峯客員研究員は「南アフリカとジンバブエではともに、黒人、白人といった人種区分による不平等は緩和されてきている」と評価する一方で、黒人の中での格差が広がったことを指摘しました。

 

水平的不平等では同じ構図の問題に直面する両国ですが、政治制度をみるとその違いは大きいです。南アフリカではアパルトヘイト撤廃後、権力分有による連立政権が成立し、自由で公正な選挙を経て、黒人を核とする与党の単独政権が成立しました。ところがジンバブエでは、一党支配のもとで選挙のたびに暴力が続き、混乱の収拾に乗り出した南部アフリカ開発共同体(SADC)の調停により、09年に連立政権が成立しました。南アフリカの政治が「権力分有から多数派政治へ」と移行したのに対して、ジンバブエはその逆の動きをしました。

 

こうした現状から意識調査をみても、南アフリカでは全体の78%が「南アフリカ人の国民的一体感は10年前より強まった」と回答し、ジンバブエでは全体の81%が「連立政権の樹立を歓迎」と回答しています。峯客員研究員は「多民族国家では連立政権の誕生が紛争回避手段として大きな意味をもつが、長い目で見れば、上からの制度選択と下からの開発を結びつけることが肝要」と発表を締めくくりました。

 

政治制度で民族紛争抑止は可能

 

武内進一上席研究員は「ルワンダとブルンジにおける紛争と国家建設」のテーマで報告しました。ルワンダとブルンジは「双子国」と呼ばれるほど、その民族構成や、国土の大半が高地丘陵地帯であること、伝統的王国を基盤としていること--など類似点が多くあります。しかし内戦に勝利した勢力が権力独占を続けるルワンダに対して、ブルンジは権力分有を導入するなど、両国は対照的な政治制度を採ってきました(過去の記事参照)。

 

エスニック対立による大虐殺の悲惨な過去を経験した両国ですが、こうした異なる政治制度がいま、エスニックな問題の解消にどのように寄与しているのか。こうした観点から武内上席研究員は、ルワンダとブルンジの比較研究を進めています。「ルワンダは経済成長が著しく、そこには権力集中のプラス効果であるガバナンスの改善も確かに貢献している。一方で、エスニックな亀裂の拡大が懸念されている。対照的にブルンジでは経済が停滞しているものの、権力分有が効いて、少なくとも政治エリートのレベルではエスニックな対立は解消している。権力分有をしているブルンジのほうが民族紛争勃発のリスクは低い」と分析結果を説明しました。

 

さらに武内上席研究員は「マルクスは経済構造が政治構造を決めると論じたが、アフリカは逆。政権をとった人が富を蓄積する。これは言い換えれば、政治権力を分有することは、経済の不平等を解消するのに役立つということ。政治制度の設計によって、民族紛争勃発のリスクを低減させることができる」と結論付けました。

 

実際の格差と人々の格差意識は違う

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(左から) 片柳 真理、峯 陽一、武内 進一、三上 了

 

「意識調査からみる大衆レベルでの紛争の認識」のテーマで発表したのが三上了研究員です。三上研究員は、ナイジェリアとガーナ、ジンバブエ、南アフリカで暮らすさまざまなエスニックないし人種グループの間で、どの層が社会経済的に不平等だと感じているか、また実際にどのような経済格差があるかを調査してきました。実際の格差とその格差を人々がどう感じるかの間には差があり、その要因を探ることが目的です。

 

三上研究員は「格差の実態がなくても格差があると感じるケースが少なかずあった。より可視性の高い政治制度を導入することによって、認識上の経済格差を是正・軽減することが可能ではないか。格差意識を軽減できれば、エスニック間の差別の動機が弱まり、民族紛争の危険性も低下しうる」と述べました。

 

このほか、JICA研究所からは橋本敬市特任研究員(テーマは「治安関連分野の改革における課題:ボスニア・ヘルツェゴビナを中心に」)と東大作特別研究員(同「紛争再発と和解の重要性:アフガニスタンの経験から」)の2人、さらに神戸大学の高橋基樹教授(同「流動するエスニシティと国家:ケニアの開発経験から」)がそれぞれ研究成果を発表しました。 

 

関連研究領域:平和と開発、成長と貧困削減

関連研究プロジェクト:アフリカにおける暴力的紛争の予防、紛争影響国における国家建設、アフリカにおける民族多様性と経済的不安定

 

日時2011年3月10日(木)
場所JICA研究所
主催者JICA研究所
問い合わせ先JICA研究所企画課
TEL: 03-3269-2357  FAX: 03-3269-2054



開催情報

開催日時2011年3月10日(木)
開催場所JICA研究所

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