JICA緒方研究所

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「アフリカにおける暴力的紛争の予防」研究プロジェクトの最終成果を公開シンポジウムにて発表

2012年8月14日

JICA研究所では、2008年に立ち上げた「アフリカにおける暴力的紛争の予防」研究プロジェクトの最終成果を発表する目的で、7月26日に東京の国際文化会館にて公開シンポジウムを開催しました。

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 片柳真理研究員(左)、三上了研究員(左二番目)、

峯陽一客員研究員(右)

研究所からは、研究代表者として峯陽一客員研究員(同志社大学教授)、研究分担者として武内進一客員研究員(アジア経済研究所アフリカ研究グループ長)、三上了研究員、および片柳真理研究員が出席しました。また、海外からは本研究のアドバイザーであるフランシス・スチュワート教授(オックスフォード大学CRISE所長)、福田パー・咲子教授(ニュー・スクール)およびタンディカ・ムカンダウィレ教授(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)、ならびに研究分担者の アーニム・ランガ— ルーヴェン大学平和・開発研究所所長が参加し、研究の発表やパネル・ディスカッションで意見を交わしました。

 

アフリカでは1990年代、いくつかの国で暴力的紛争が勃発し、2000年代に入ってからも紛争の散発と不安定な和平が続いており、紛争の再発が懸念されている国もあります。こういった背景を踏まえて、JICA研究所では2008年に「アフリカにおける暴力的紛争の予防」研究プロジェクトを立ち上げました。また、海外からの研究者の参加も得ながら、ルワンダとブルンジ、ガーナとコートジボワールなど2か国の対比による比較研究を行うとともに、ケニア、ナイジェリア両国の歴史的変化のプロセスについての事例研究を取り上げています。さらに、JICA独自の意識調査を南アフリカなどの7か国で実施しました。

 

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 武内進一客員研究員(左)、福田パー咲子教授(右)

本プロジェクトでは、これまでも様々な機会に中間成果を発表してきましたが、今回統計分析の結果および政策的含意も含めた研究の最終成果を発表するに至りました。

 

加藤宏JICA上級審議役が巻頭の挨拶のなかで、「アフリカへの開発援助を実施するうえで、JICAを含めた国際援助コミュニティーには、ルワンダなどの国における政治状況にもっと注意を払うべきであったという反省があった。この反省を基に、JICA研究所では、2008年『アフリカにおける暴力的紛争の予防』研究プロジェクトを立ち上げ、今日数年にわたる研究の成果を発表する機会を得た」と述べました。

 

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    加藤宏上級審議役の巻頭の挨拶
続いて第一部では、本プロジェクトに関わった研究員に よる発表がありました。
まず、研究代表者の峯客員研究員からプロジェクト概要の説明があり、「背景として2007年3月に英国のウィルトンパークで行われたUNDPとJICAとの『アフリカにおける紛争予防と開発援助』会合がきっかけとなった」と述べました。本プロジェクトの研究デザインとして、水平的不平等、人々の意識、政治制度の選択の3点の研究視点を挙げ、また、1.安定国と不安定国、2.定性分析と定量分析、3.政治学と経済学、4.アフリカ、欧米、日本の知見、5.研究と実務、など、異なるものを対比させた方法論を紹介しました。 峯客員研究員は発表の最後に、この長年の研究成果を書籍化して本年度中にフランシス・スチュワート教授の編集による「紛争、不平等、エスニシティ」シリーズの一冊として刊行されることを発表しました。

 

研究分担者であるランガ—氏は、まず全世界の紛争の歴史的推移を紹介し、「長年の研究によるエビデンスから、紛争の原因は文化的または経済的要因だけでは説明できないとして、フランシス・スチュワート教授が提唱した多次元的な水平的不平等(Horizontal Inequality)が紛争の主な要因となっている」と力説しました。

次に、意識調査の統計分析結果について三上研究員から発表がありました。プロジェクトでは、アフリカ7か国の都市部に住む住民3,745名を対象に、住民の水平的不平等の認知、自集団のアイデンティティ、さらに他集団への敵意の強さなどの聞き取り調査を行いました。このうちガーナ、ナイジェリア、ケニア、ジンバブエ、ウガンダの5か国における調査結果を分析し、「民族間の水平的不平等感は存在し、その原因は構造的であり、人々の政治的民族格差は、経済的民族格差に関する認識に影響する」との結果を発表しました。

 

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片柳真理研究員は、調査研究の成果について発表
続いて片柳研究員は、調査研究の成果に基づき次の3項目の政策的含意、提言を紹介しました。
1. アフリカにおける暴力的紛争の根本原因の一つである集団間の多次元的な水平的不平等の観点をアフリカ諸国の開発政策に組み込むべきである
2. 客観的な不平等と、人々の主観的な不平等感は必ずしも一致していない事実から、
政府関係者、開発実務者はこの集団の主観的な不平等意識を強めないよう、政策内容や行動・態度に注意すべきである
3.インクルーシブな制度は、フォーマル、インフォーマルを問わず平和の礎である。外部関係者は、持続可能なパワーシェアリングと効果的な地方分権を目指す地元のイニシアティブを尊重すべきである
片柳研究員は、この3提言のそれぞれにおいて具体的にはどのような行動を計画していくべきかの例として、「開発援助機関とカウンターパート(被援助国の政府)がプロジェクト地域を選定する際に、特定な地域がおろそかにされないように地域的な配分に注意すべきである」など9点を挙げました。

 


第二部では、福田パー教授が「暴力的紛争の予防:ドナーにとっての政策的含意」について、ムカンダウィレ教授が「アフリカにおける紛争予防と経済発展」について、また、スチュワート教授が「水平的不平等に対する政策のあり方」について報告しました。

 

引き続き行われたパネル・ディスカッションのなかで、武内客員研究員は、ルワンダ、ブルンジの2か国に焦点を当てた研究から学んだ結果を発表し、「この2か国が人種構成—フツ族が多数民族で、ツチ族が少数民族—など共通点が多いことから双子の国と呼ばれているにもかかわらず、その政治制度では植民地以前から大きな違いがあった」と指摘しました。両国の内戦終結のしかたも違っており、ルワンダでは軍事勢力が勝利したのとは対照的に、ブルンジでは国際社会の介入があり、パワーシェアリングの政治体制をとりました。ただし、「パワーシェアリングは、民族間の紛争を防ぐための一つの選択肢で万能薬ではなく、インクルーシブな取り組みによってのみ、紛争予防が可能となる」ことを強調しました。

 

本シンポジウムの最後に、加藤上級審議役は「JICA研究所を含めた研究機関は、こういった研究成果を有益に活用するために、開発援助機関、研究者、政府政策立案者、そして国際社会に向けてもっと発信していくべきだ」と締めくくりました。

開催情報

開催日時2012年7月26日(木)
開催場所東京、国際文化会館

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