『SEED-Netが紡ぐアセアンと日本の連帯 学術ネットワークが織りなす工学系高等教育の基盤』

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『SEED-Netが紡ぐアセアンと日本の連帯 学術ネットワークが織りなす工学系高等教育の基盤』

近年、アセアン諸国における高等教育、特に工学分野の進歩は目覚ましいものがあります。その原動力の一つになったのが、JICAが2001年に開始した技術協力事業「アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net: ASEAN University Network / Southeast Asia Engineering Education Development Network)」です。その立ち上げから携わった2人のJICA職員が、相互理解と信頼をベースに進めてきたネットワーク構築のプロセスを、この「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第33弾で振り返ります。

1997年のアジア通貨危機で大きな打撃を受けたアセアン諸国では、産業を労働集約型から技術集約型にシフトして、自らの手で自国を社会的、経済的に発展させ続けることが重要だという認識が広がりました。そのためには各国の工学系高等教育を強化し、高度な知識や技術を持った人材を育成することが必要不可欠でした。

SEED-Netでは、アセアン10カ国の各国における工学系トップ大学26校を対象に、日本の14大学を交えた大学間のネットワークを構築し、教育・研究能力向上を支援してきました。事業開始から22年間で、修士・博士号を取得した教員は延べ1,400名以上、日本の大学・産業界との共同研究は200件を超えます。アセアンの大学自体の能力が向上しただけでなく、アジアという枠組みの中でアセアンと日本の学生の交流が活発になり、アセアンおよび日本の大学の国際化も促進されました。そして何よりも、人と人との信頼関係の構築を通じてアセアンのメンバー大学同士、アセアンの大学と日本の大学の連帯が形成されました。

この本を通じて著者の二人が最も伝えたかったことは、信頼に基づく人と人のつながりであり、それは援助する側とされる側の立場を超えて「イコールパートナー」として交わる中で形成されていくものであるという点です。そして、この信頼に基づくつながりが、共存共栄の社会を作っていくと語っています。

かつてアセアンが日本とともにSEED-Netを作り、域内の大学間のネットワークを構築して高等教育の底上げを図ったように、現在、アフリカ54カ国が加盟するアフリカ連合(AU)も、アフリカの5つの拠点大学を構成員とする汎アフリカ大学(PAU: Pan African University)構想を推進するなどアフリカ域内の大学間ネットワークへの取り組みを推進しています。JICAはこのPAUの拠点大学とSEED-Netのメンバー大学とを結ぶことで、大陸を横断する学術交流も推進しています。

このように、SEED-Netは東南アジアにおいて先行し成功を収めた大学間ネットワークとして、アフリカなど他地域に参考になる経験や教訓を多く有し、その教育・研究活動は広く世界へと展開されているのです。

著者
小西 伸幸、 梅宮 直樹
発行年月
2023年1月
出版社
佐伯コミュニケーションズ
言語
日本語
ページ
213ページ
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #教育
ISBN
978-4-910089-28-7