プロジェクト・ヒストリー『SEED-Netが紡ぐアセアンと日本の連帯-学術ネットワークが織りなす工学系高等教育の基盤』出版記念セミナー開催

2024.02.01

2023年12月26日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『SEED-Netが紡ぐアセアンと日本の連帯-学術ネットワークが織りなす工学系高等教育の基盤 』出版記念セミナーをオンライン・対面で開催しました。

対面とオンラインで開催され、多くの人が参加

大きく広がったアセアン域内の人的ネットワーク

第一部では、同書の著者である笹川平和財団アジア・イスラム事業グループの小西伸幸グループ長と上智大学グローバル教育センターの梅宮直樹教授がプロジェクトの概要を説明しました。

梅宮教授は、もともとアセアン側にあった大学間のネットワークであるASEAN University Network(AUN)のサブネットワークとして、日本が協力して2001年に立ち上げたのがSoutheast Asia Engineering Education Development Network(SEED-Net)であり、現在ではアセアン10ヵ国の26メンバー大学と日本の18の連携大学が参画する工学系ネットワークになったことを紹介。これまでの約20年間で、工学系10分野における1,400人以上の修士・博士学位取得支援による教員の質の向上や、300件以上の研究プロジェクト実施による研究の質の強化といった支援を行ってきたことを説明しました。

SEED-Netプロジェクトを概説した上智大学グローバル教育センターの梅宮直樹教授

小西グループ長はSEED-Netの活動実績について国別データなどを示しつつ、成功の要因として、アセアンの主要大学をホスト大学に、そのパートナーとして日本の大学を幹事大学にしたことで責任の所在を明確化し、資金を集中投下できたことなどを挙げました。また、日本の大学の教員のもとでカンボジアやラオス、ベトナムの若手の教員が共に学ぶ写真を示し、「これこそ人材育成ネットワークの縮図」だと紹介しました。

SEED-Netの活動実績を紹介した笹川平和財団アジア・イスラム事業グループの小西伸幸グループ長

SEED-Netのアセットを活用した未来とは

第二部では、まずJICA人間開発部の上田大輔次長がSEED-Netの将来像について説明。SEED-Netプロジェクトは2023年3月に終了し、現在はAUNによる運用に向けた移行フェーズであり、今後は日本とアセアンの国際頭脳循環のプラットフォームとして機能するように支援していく方向性を示しました。

SEED-Netの将来像を説明したJICA人間開発部の上田大輔次長

次に、JICA緒方研究所の萱島信子 シニア・リサーチ・アドバイザーが、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究-アセアンの主要大学の教員の海外留学経験をもとに- 」を紹介。マレーシア、インドネシア、ベトナム、カンボジアの主要10大学の教員に対して質問紙調査やインタビューを実施し、約3,300人のデータを分析した結果、日本への留学経験者は、帰国後も指導教員との関係を維持し、日本と国際共同研究を行っている傾向が高いことや、SEED-Netの貢献もありアセアンの域内留学が増加していることなどを報告しました。

海外留学のインパクトについての研究を紹介したJICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー

パネルディスカッションでは、上田次長から「SEED-Netが国際頭脳循環のプラットフォームとして機能していくためには」と問われ、SEED-Net発足時から携わってきた東京工業大学環境・社会理工学院の高田潤一学院長がコメント。「アセアン各国の大学のレベルは上がり、対等に学生が交流できるようになってきた。その中で痛感したのは、教員のやりとりだけでは人的ネットワークは広がらない。学位取得を目的に一緒に飯を食いながら信頼関係を醸成し、卒業生が昔の師匠に声をかけて一緒に研究するといった師弟関係を軸に研究が広がっていくため、若い世代の交流が重要」と述べました。

パネルディスカッションに参加した東京工業大学環境・社会理工学院の高田潤一学院長

「次世代をどのように育成していくか」という点には、萱島シニア・リサーチ・アドバイザーが「開発途上国の教員にとっては留学が非常に重要。ただし留学事業と大学の国際的な研究活動や教育活動をそれぞれ別々に行うのではなく、もっと連携させるべき」、「日本とアセアンの関係性の変化をふまえた展望」については、小西氏が「SEED-NetはJICAだけのアセットではなく、日本国民みんなのアセット。オールジャパンで活用できる仕組みが重要」と語り、多様なテーマで議論が展開されました。

最後に、カンボジア駐在時にSEED-Netのポジティブなインパクトを実感していたというJICA人間開発部の亀井温子部長が、「アジアの中で日本はサバイバルにさらされている時代。今後、SEED-Netというパイプを限りなく太くしていく必要がある」と述べ、セミナーを締めくくりました。

総括の言葉を述べたJICA人間開発部の亀井温子部長

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【東南アジア・教育】プロジェクト・ヒストリー『SEED-Netが紡ぐアセアンと日本の連帯 学術ネットワークが織りなす工学系高等教育の基盤』出版記念セミナー【JICA緒方研究所:セミナー】

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