【リンバ・アンディ・ベッセ研究員コラム】「SDGsのローカライゼーション」とは何か、そしてなぜ今これが重要なのか?
2025.05.27
JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。今回は、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)や気候変動の緩和策・適応策に関する研究を行うリンバ・アンディ・ベッセ 研究員が以下のコラムを執筆しました。
著者:リンバ・アンディ・ベッセ
JICA緒方貞子平和開発研究所 研究員
「SDGsのローカライゼーション」とは、国連のSDGsをローカルレベル(国や地方のレベル)に合わせて適用できるようにすることを指します。これにより、グローバルな目的に向かって、それぞれの国・地域特有の文脈の中でも実践的な行動につなげていくことが可能になります(FAOおよびUNDP[2023年])。SDGsのグローバル指標は、国や地域特有の文脈から見た場合にはなじまないことが多々あるからです。
都市レベルでのSDGsのローカライゼーションについて見てみると、日本は地方都市でSDGsの導入に成功しており、SDGs未来都市に指定された182の地方自治体の76%が、地方自治体の独自の取り組みに関連のある指標を活用しています(JICA緒方研究所・遠藤研究員が実施中の研究による)。ローカライゼーションは、当該地域での政策立案、ガバナンス、そしてコミュニティーのイニシアチブを通じてSDGsを達成することを目指しています。また、それによって、地方政府およびその他のステークホルダーにとって、SDGsが、より意義のある実行可能なものになります。
ローカライゼーションは、効果的な意思決定や政策実施のための、より正確で個別の状況に応じた洞察を得られることから、SDGsのターゲットレベルや目標レベルよりも、指標レベルでの適用が支持されています。一般化されたグローバルな評価基準では捉えることができない地域間格差や地域特有のニーズの細やかな理解を、ローカライズされた指標を用いれば得ることができるからです。
SDGsのローカライゼーションがもたらす利点として、政策実施、進捗モニタリング、成果の追跡の精度が向上することが挙げられます。これらにより、SDGsを実践する上で関連の深い、その国特有の文脈を取り込むことで、ターゲットの達成度を改善することができます(Gaoほか[2017年])。また、国ごとのニーズや能力に応じて、食料生産、生物多様性、保健、教育、土壌劣化など、具体的な持続可能性に関する目標やターゲットに集中的に取り組むことができるよう、各国をエンパワーすることにもつながります。SDGsのローカライゼーションは、経時変化や、さまざまな地域における進捗のモニタリングに役立つため、重要です。
一例として、Xuら(2020年)は、時空間解析によって、いかに中国の各地域で異なるSDGsの進捗を追跡できるかを示しました。例えば、2000年代には中国西部よりも東部、また、2015年には中国北部よりも南部で進捗度のスコアが高くなっていたのです。こうした進捗の地域差は、SDGsの進捗状況を評価する際には、地域間の状況のばらつきを考慮する必要性を示しています。さらにローカライゼーションは、SDGsのターゲット間の相互作用を説明することにより、SDGs達成に向けた介入策が互いに調和し、相互に強化し合うよう、統合的な政策のための優先順位づけの裏付けとなります(Nilssonほか[2018年])。
中国、ノルウェー、スウェーデンでのSDGsのローカライゼーションの事例は、ローカライゼーションのメリットを示しています。
【中国】
中国は、社会・経済・環境システムの構築とシステム間の協調を重視することで同国独特の社会経済的条件を反映しつつ、地域ごとにSDGsを異なるかたちで実施しながら、国家開発指標にSDGsを統合してきました。その結果と影響は、北京と深圳を筆頭に、持続可能な開発に関して全般にポジティブな傾向を示しています。ただし、地域間格差とシステムの持続可能性の低下が今後の課題です(HuおよびLi[2023年])。
【ノルウェー】
ノルウェーは、地方レベルでのSDGsのローカライゼーション戦略として、アンドーヤでの沿岸域利用計画づくりに注力しています。Fullerら(2023年)は、Q方法論を活用し、ローカルレベルの視点を収集して既存の政策プロセスにSDGsを取り入れました。ローカライゼーションはステークホルダーによる関与や社会変革を促進し、持続可能性に向けた人々の主体性や能力を向上させるのに役立ちました。
【スウェーデン】
スウェーデンは、国レベルでのSDGs実施のために、分野横断型の連携やリーダーシップを利用しながら、多様なアクターのためのプラットフォームを開発しました。早期の段階での連携は、組織レベルの目標や役割を理解することがいかに重要であるかを示すものとなりました。一方で、リーダーシップの中立性に関しては課題があると指摘されています(KrantzおよびGustafsson[2023年])。
JICA緒方研究所では、ローカライゼーションの重要性の測定に関するケーススタディーを実施しています。この研究では、インドネシアの地方レベルの統計データとネットワーク分析を用いて、SDGs指標の重要性を測定しています。ネットワーク分析は、SDGsの指標間のつながりと指標システム全体としての重要性を検証することで、SDGsの指標の優先順位付けをするための効果的な枠組みとなります。このアプローチは、SDGsの指標同士が互いに関連しあう性質を利用して、どの目標またはターゲットが最も大きな影響を持ち、優先されるべきであるかを特定するものです。したがって、この研究では、指標間の相互作用を定量化し、優先順位の高い指標を特定するとともに、エビデンスに基づく政策指針の策定を目指しています。
また、この研究ではネットワーク解析によって優先度が高いとされた指標(図1で赤枠で囲まれている指標)のうち、何個がインドネシアの地方レベルのSDGsの指標としてローカライズされたものか検証しました。その結果、図1からは、優先度が高いとされた12個の指標のうち、7個がローカライズされた指標であったことが分かります。これは、優先度が高いとされた指標の大半がローカルな文脈のニーズや特殊性に合わせてカスタマイズされていたことを示唆しています。SDGsの進捗モニタリングでは指標をローカライズする重要性と効率性を裏打ちする結果となりました。
図1:グローバル指標、ローカライズされた指標、優先順位の高い指標の総数(出典:著者)
ローカライゼーションの成功例が一部で見られるとは言え、グローバルなターゲットを国レベルあるいは地方レベルでの実行可能な戦略に変換することは複雑であることから、ローカライゼーションは今も課題に直面しています。また、データの利用可能性、ガバナンスの体制、および社会経済的条件についての地域間の不均一性によって生じているかもしれない他の課題もあります。データの欠如は、SDGsの達成と追跡を難しくします。地方自治体の大半で、SDGsを実行し注意深くモニタリングするためのリソースやデータが不足しており、ローカライゼーションを進める取り組みが効果的でなくなるリスクもあります(Leavesleyほか[2022年])。さらに、情報の不足は取り組みの一貫性の欠如や伝達不足にもつながります(Mortimerほか[2023年])。
このほかの課題として、各地域は多様であり、文脈ごとに状況が異なっていることが挙げられます。グローバル戦略は必ずしもローカルレベルのニーズや能力と合致しないので、こうした制約によって、SDGsのローカルレベルでの効果的な実施には多くの問題が起こり得ます。地域レベルでは、一般化されたSDGsの戦略を非現実的にするような地域固有の課題にしばしば直面します。だからこそ、地域固有の地理的、社会的、および政策的な環境にあわせ、各地域向けにカスタマイズされたアプローチが必要とされていますが、グローバルなSDGsの枠組みでは実現が難しいのが現状です(Tanほか[2019年])。
のコラムは、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「2030年以降の新たな国際開発目標における指標フレームワークに関する研究
」の一環で執筆されました。本研究プロジェクトでは次のステップとして、どのようにして開発途上国においてSDGsの指標をローカルレベルで優先順位付けするか、また、2030年以降、持続可能な開発アジェンダの優先課題にローカライゼーションがどのように影響を与えていくのか明らかにすることを目指します。
※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。
■プロフィール
リンバ・アンディ・ベッセ
インドネシア・ウダヤナ大学リモートセンシング・大洋科学センター助教、芝浦工業大学特任助教、国連大学特別講師などを経て、2024年から現職。主な研究領域は、持続可能な開発目標(SDGs)、気候変動緩和と適応、都市洪水など。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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