【リチャード・センパラJICA留学生コラム】グローバル目標の推進におけるエビデンスの役割とは―SDGsローカライゼーションをめぐる大阪・関西万博イベントでの議論から―
2026.06.03
本コラムは、SDGsグローバルリーダープログラムのJICA留学生であるウガンダ出身のリチャード・センパラ氏によって執筆されました。JICA緒方研究所が大阪・関西万博で開催したSDGsローカライゼーションに関するイベントに参加した経験を踏まえ、グローバル目標の達成に向けてエビデンスが果たす役割について考察しています。
著者:JICA留学生 リチャード・センパラ
世界の国々は11年前、ミレニアム開発目標(Milenium Development Goals: MDGs) の後継として持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を採択しました。SDGsは、2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲット で構成され、人類と地球の存続に重要な分野において、ステークホルダーの行動を促すことを目指しています。
SDGsの採択以降、大半の国々が進捗を評価するための取り組みを進めており、代表的なものが幅広い指標を用いて達成度と課題を評価する自発的国家レビュー(Voluntary National Reviews: VNR)や自発的ローカルレビュー(Voluntary Local Reviews: VLR) です。各国は開発段階や実施能力に大きな違いがあることから、SDGsをそれぞれの国の状況に合わせてローカライズ(現地化)することが、目標を効果的に実現し、着実に履行していくための実践的なアプローチと言えます。
私は、2025年10月5日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)が大阪・関西万博 で開催したイベントに登壇しました。「JICAと考える SDGsと途上国のいま、そしてこの先 」というテーマの下、SDGsのローカライゼーションに焦点を当てて議論しました。
大阪・関西万博でのイベント「JICAと考える SDGsと途上国のいま、そしてこの先」で、パネリストとして発言するリチャード・センパラ氏
エビデンスに基づく政策は、多くの国で政策策定者、開発パートナー、市民のいずれからも支持されています。介入策、技術、コスト(短期、中期、長期)、ステークホルダー、制度、利害や力学に関する信頼できるエビデンスは、十分な情報に基づく意思決定に欠かせません。エビデンスは、取り組むべき適切な問題を見定め、的確な対策を示す助けとなるのです。
開発途上国では特にそうですが、資源が限られる状況では、投資や介入が最大限の成果を生み出すようにするためにエビデンスの活用は必要不可欠です。エビデンスに基づく戦略を真に効果的なものにするためにも、グローバル目標を各国・各地域の文脈に適応させることが重要なのです。
インフラの選択肢、持続可能な天然資源の活用戦略、人的資源開発、貧困削減に関するエビデンスには、差し迫った世界規模課題への対応を後押しする力があります。しかし実際には、各国は特定の目標を他よりも優先しがちです。気候変動が多くの国々に深刻な影響を及ぼしていることを明確に示すエビデンス が存在するにもかかわらず、経済分野の目標は環境分野の目標より注目を集めやすいのです。長期化する干ばつ、集中豪雨による洪水、森林火災はますます頻発しています。例えば、経済活動や交通を妨げる都市洪水は、ウガンダの多くの都市部でたびたび発生 しています。人口が急増している低・中所得国にとって、環境保全と経済的な生き残りのバランスをとることは大きな課題です。一方、先進国では高齢化と出生率の低下によって増え続ける医療費が懸案となっています。
教育、医療、安全保障、雇用創出を持続的に支えるためのエビデンスに基づく戦略には、必然的にトレードオフが生じます。SDGsや他のグローバル目標を追求する上で、エビデンスは健全な政策立案に不可欠な要素なのです。
大阪・関西万博でのイベント「JICAと考える SDGsと途上国のいま、そしてこの先」で行われたパネルディスカッション
グローバル目標を達成するには、進捗状況を効果的に把握するための定期的なモニタリング が必要です。SDGsには169ものターゲットがあるため、進捗を継続的に追跡するための戦略が欠かせません。SDGsのローカライゼーションによって、専門家が各国の状況に合わせたアプローチを設計できるようになり、進捗の把握が容易になります。
例えばウガンダ政府は、毎年、首相府 のSDG事務局 を通じて進捗確認のためのステークホルダー会議を開催しています。そこでは各目標に関する評価報告があり、ステークホルダーが改善に向けた提言を共有しています。現在、各国がSDGsの目標への進捗をモニタリングし、目標達成へのコミットメントを再確認するための助けとして、VNRの仕組みが重要な役割を果たしています。このように、重大な課題に対処するための現実的な政策行動を打ち出す上で、エビデンスが指針として利用されているのです。
2024年6月24日、ウガンダの首都カンパラでSDGsに関する第3回全国会議に出席したステークホルダーら
グローバル目標の達成には協働 が欠かせません。各国は異なる段階にあり、異なる専門性を有します。だからこそアイデアや資源を分かち合うことで、取り残される国が生まれるのを防ぐことができます。各国がお互いに教訓を共有し、課題に取り組むプラットフォームを確立することは、相互学習を促進するために不可欠です。具体的には、ナレッジ・シェアリング(知識共有)ネットワーク、地域フォーラム、協働型ワークショップなどを通して、互いの経験を学びあうことができます。
政府や開発パートナーは、実行可能な介入策に関するエビデンスを創出するために研究機関との連携を進める必要があります。学術界は、合意されたグローバル目標について教育・研究を行い、それらをどのように達成できるのか、また各国のニーズに即してどのようにローカライズすべきかを明らかにする上で、重要な役割を担っています。
このアプローチは、日本の愛知県豊田市の事例によっても強調されています。同市では、研究者によるSDGsに関するセミナーが実施されており、その取り組みの成果の一つとして、豊田市民のSDGs認知度は2018年の14.8%から2023年には91.8%へと大きく向上したと報告されています。研究機関を巻き込み、SDGsやその他のグローバル目標に関する講義やセミナーを提供することは、知識の普及にとどまらず、人々の意識向上を促し、学術界と地域社会とのつながりを強めることにもつながります。同様にウガンダでは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) の達成に向け、各国固有の状況を踏まえ、分野横断的なアプローチを重視した戦略に関するエビデンスを提供する上で、マケレレ大学 が重要な役割を果たしています。
グローバル目標の達成には、国際社会、国、地域の各レベルで莫大な資金が必要とされます。追加的なリソースを調達するには、革新的な資金調達メカニズムが欠かせません。
また、文化的制度や伝統的組織が強く根付いている国々では、そうした既存の仕組みを活用することでコスト削減につながる可能性もあります。例えば、ウガンダ内の伝統的地域であるブガンダ王国 は、毎年開催する「カバカ・バースデー・ラン 」を通じて健康促進に取り組んでおり、HIV・エイズ、がん、鎌状赤血球症といった疾病に対する認知向上を図ると同時に、それらの対策に充てる資金を募っています。
グローバル目標を達成するには、エビデンスを実際に利用する人々や受益者の手に確実に届けることも極めて重要です。エビデンスをどのような手段や方法で普及するかによって、その有効性は大きく左右されます。そのため、多様なステークホルダーに届くようエビデンスを分かりやすく整理してまとめ、適切に蓄積・共有するための革新的な工夫が求められます。
マルチメディア・プラットフォームの活用は、ほぼ全てのステークホルダーのニーズに応える有効な戦略です。世界各地でインターネットが普及 した今、ソーシャルメディアの活用は不可欠です。また、音楽、ダンス、演劇といった創造的な手法は、農村部においてもグローバル目標を伝える上で有効な手段になり得ます。実際に、ウガンダをはじめとする国々では、ミュージシャン が重要なメッセージを広める役割を担う事例が数多く見られます。適切に整理・まとめられたエビデンスを、適切なチャネルを通じて発信することが、意図した成果を達成するには欠かせません。
2030年の目標年まで残された時間は、あと5年しかありません。各国はSDGsの実施状況を国や地域といったあらゆるレベルで評価し、これまでの成果を検証するとともに、直面している課題を明らかにし、2030年以降に向けてとるべき行動を見極める必要があります。
デジタル経済の時代においては、コネクティビティー(連結性)の向上とエビデンス共有の促進を全ての国が優先事項に位置づけるべきです。特に開発途上国においては、エビデンスの創出・共有・活用を妨げる要因、例えば貧弱なインフラ、特許による制約、人材不足に対処しなければなりません。
さらに、各国の状況に沿ったエビデンスは、プログラムの実施を円滑にし、進捗のモニタリングや評価を容易にします。SDGsのローカライゼーションは、各国が自ら何を達成できるのかを考え、どの分野で改善が必要なのかを明確化する機会になります。また、最も費用対効果が高い形で、意識向上と主体的な参画を促すことにもつながります。日本のようにローカライゼーションを積極的に進めてきた国々では、複数の目標とターゲットで著しい進歩が見られるからです。
SDGsを達成するためだけでなく、2030年以降の新たなグローバル目標に向けた前進を支えるためにも、エビデンスは地方レベル、国レベル、世界レベルにおいて、戦略の指針であり続けるべきです。
大阪・関西万博でのJICA緒方研究所主催イベントの詳細は、以下のリンクをご覧ください。
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.