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【プルネンドラ・ジェイン客員研究員インタビュー】地域パートナーシップを通じたインド太平洋地域における日本の開発協力とこれから

2026.06.12

日本の政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)は、70年以上にわたり、アジア全域の経済発展と地域協力の在り方を形づくってきました。今回は、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)のセイフデイン・アデム 研究員が、プルネンドラ・ジェイン 客員研究員(アデレード大学名誉教授)にインタビューを行い、南アジアにおける日本の開発協力の変化、自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific: FOIP)構想を支える原則、そして急速に変化する世界情勢における日本の役割の変化について考察しました。

日本やJICA緒方研究所とのつながり

アデム:研究者としてのキャリアの中で、どのように日本への関心が生まれ、JICA緒方研究所に関わるようになったのですか?

ジェイン:私が日本に関心を持つようになったのは1976年までさかのぼります。それ以来ずっと、日本は私の研究生活の中心にあり続けています。当初は日本の地方政治や国政、外交政策を研究していましたが、徐々に開発協力へと関心が広がっていきました。ですから私のキャリアにおいて、ODAが研究対象となったのは比較的最近のことと言えます。

そして私がJICA緒方研究所での研究に携わり始めたのは10年以上前です。2013年に、当時の加藤宏研究所長から、日本のODA60周年を記念するプロジェクトに参加するよう招かれました。それは、日本の開発援助がどのように発展してきたかを振り返り、より広範な世界の開発協力における今後の方向性を探ることを目的としたもので、多くの研究者が集まる魅力的な取り組みでした。

そのプロジェクトの主な成果の一つが、2015年に出版された書籍『Japan’s Development Assistance: Foreign Aid and the Post-2015 Agenda 』です。私は日本の対外援助、制度的な変化、数十年にわたる政策方針の変化について考察する章を担当しました。それ以来、JICA緒方研究所と連携し、南アジア地域、特にインドに対する日本の関与について引き続き研究を行っています。

インドに対する日本の開発協力から見えてくるもの

アデム:南アジアに対する日本の開発協力に関する研究から、どのような知見が得られましたか?

ジェイン:JICA緒方研究所の客員研究員となってから、2本のワーキングペーパーを執筆しました。どちらもインドに対する日本の援助に焦点を当てたもので、日本の対外援助に関する過去の文献ではほとんど注目されていなかった分野です。1本目のワーキングペーパーNo.139「Twin Peaks: Japan’s Economic Aid to India in the 1950s and 2010s 」では、日本の対インドODAにおいて、私が「twin peaks(2つのピーク)」と呼ぶ現象について考察しました。インドは1950年代、日本が援助を開始した時期の最初の援助受け入れ国の一つとなり、この時期に日本の対インド支援は1つ目のピークを迎えました。その後、さまざまな理由からインドの相対的な重要性は低下していきましたが、2010年代に入ると、再び日本の開発協力における中心的なパートナーとして台頭しました。これこそ、私が呼ぶところの第2のピークです。

2本目のワーキングペーパーNo.184「Japan’s Foreign Aid and ‘Quality’ Infrastructure Projects: The Case of the Bullet Train in India 」では、極めて象徴的で前例のない取り組みであるインド高速鉄道事業を取り上げました。これはインド初の高速鉄道システムであり、日本の新幹線の技術を海外で展開する初の事例で、日本が単一国に対して行った円借款として過去最大級のものです。また、この事業は、その技術的・資金的規模の大きさにとどまらず、インフラ整備を軸にした日本の開発協力の基本的なアプローチや、インドの近代化に向けた日本の長期的な関与を強く示すプロジェクトでもあります。

さらに2026年2月には、私が執筆したディスカッション・ペーパーNo.45「 The Ties That Bind: Part 1 (1950s-1990s) Japan–South Asia Relations and Decades of Development Cooperation Partnership 」と、No.46「The Ties That Bind: Part 2 (2000-2024) Japan–South Asia Relations and Development Cooperation Partnership in the Twenty-first Century and in the Era of the Indo-Pacific 」が発刊されました。この2本では、70年にわたる日本のODAの歴史と、日本が南アジアに特に重点を置いてきた背景にある戦略的・政治的要因を分析し、日本の援助の軌跡についての包括的かつ最新の知見を提供しています。

写真:日本の開発協力の発展を振り返ったJICA緒方研究所のプルネンドラ・ジェイン客員研究員(アデレード大学名誉教授)

日本の開発協力の発展を振り返ったJICA緒方研究所のプルネンドラ・ジェイン客員研究員(アデレード大学名誉教授)

日本のODAの発展と特徴とは

アデム:日本のODAはこれまでどのように発展してきたのか、また、独自の特徴を教えてください。

ジェイン:日本は開発援助国としての長い歴史を持っています。1960年代初頭に経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)開発援助委員会(Development Assistance Committee: DAC)の創設メンバーとなった日本は、当初はほぼアジア地域に集中して援助を実施しており、1960年代にはその割合が最大で97%に達していました。その後、日本の国際的な役割が拡大するにつれ、アフリカやラテンアメリカなどの他地域にも開発協力の範囲を広げ、1989年には日本は世界最大の援助国となりました。

韓国やシンガポールを含むいくつかの国は、経済発展に伴ってODA対象国から「卒業」しました。日本側も、世界や国内の状況の変化に応じて開発政策の枠組みを更新してきました。政府開発援助大綱(1992年)およびその改訂(2003年)、開発協力大綱(2015年)およびその最新の改訂(2023年)を検証することで、冷戦終結以降の日本の開発政策の方向性がどのように変化してきたか、重要な示唆を得ることができます。

日本は無償資金協力や技術協力も行っていますが、日本のODAの長年にわたる大きな特徴は、主に円借款を通じたインフラ支援に重点を置いていることです。また、自助努力と要請主義を重視し、援助受け入れ国政府の優先課題やニーズを反映した事業を展開するようにしている点も重要な特徴です。

自由で開かれたインド太平洋の戦略的意義

アデム:自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific: FOIP)という概念は、日本の外交政策・開発政策において、ますます中心的な位置を占めるようになっています。FOIPとは何を意味し、それを通じて日本はどのような価値を推進していますか?

ジェイン:FOIPとは、インド洋と太平洋を一体的な戦略的空間として結びつける構想です。その中核にあるのは、この地域が外に開かれ、包摂的で互いに連携した状態を維持することであり、同時にインド太平洋諸国間での協力を推進することも目指しています。

FOIPの重要な原則は、法の支配とルールに基づく国際秩序です。これは、圧力や一国主義ではなく、共通の規範によって導かれる状態を確保することを目指しています。さらにFOIPは、同様の原則と戦略的利益を共有する、いわゆる「同志国」間の協力にも重点を置いています。透明性、説明責任、制度的能力強化を基盤とする日本の開発協力は、特にインフラ整備や連結性の分野において、FOIPの目標実現に直接的に貢献するものです。

アデム:地政学的に緊張が高まっている地域では、FOIPはどのような戦略的利益をもたらしますか?

ジェイン:FOIPが正式に打ち出される前から、インド洋と太平洋を統合して捉えるという構想はすでに議論されていましたが、FOIPはこの広範な地域ビジョンを明確にしたと言えます。ベトナム、フィリピン、インドネシアといった国々との日本のパートナーシップは、開発協力が各国の経済成長を支えると同時に、地域全体の安定も寄与することを示しています。

パートナー国間の協力もますます重要性を増しています。例えば、日本とオーストラリアはともに南太平洋の島しょ国と深い関係を築いているため、両国の連携はこれらの島しょ国の開発において重要な役割を果たし得ます。地域内外のアクターによる南太平洋地域への関与が強まり、戦略的環境が変化し続ける中では、こうしたパートナーシップはますます重要になっていくものと考えます。

写真:インタビュアーを務めたJICA緒方研究所のセイフデイン・アデム研究員

インタビュアーを務めたJICA緒方研究所のセイフデイン・アデム研究員

アジア・アフリカ間の協力と日本の果たす役割

アデム:日本は開発パートナーシップを通じて地域協力および地域横断的な協力にどのように貢献していますか?特にアジア・アフリカ間について教えてください。

ジェイン:日本はアジアの経済成長と制度的能力強化を長年にわたって支援してきており、近年ではアフリカにも支援を広げてきました。こうした取り組みは、各地域内での協力だけでなく、地域をまたがる協力関係を強化する基盤にもなります。

アデム:その基盤を踏まえると、異なる地域の国々が互いに学び合える可能性が大いにあると私は思っています。特に南アジアとアフリカには、さまざまな構造的な共通点があります。どちらの地域にも発展段階の異なる国々があり、国家の脆弱性や制度の不備といった課題に直面しています。過去のアジア諸国の開発経験を生かすことで、各国は実践的な教訓を共有し、互いの強みを生かし補完し合うことができます。そうすることで、経験を持つ国々が同様の課題に直面する他の国々を支援するという「南南協力」の機会が生まれます。

ジェイン:その通りです。だからこそ、既存の地域ネットワークが非常に重要です。例えばインドとアフリカとの間には、強い経済関係と移住を通じた結びつきがあり、そのような協力を実現する上で有望な足がかりとなります。インドはこうした人的・経済的なつながりを基盤として、「インド・アフリカフォーラムサミット」という公式プラットフォームを運営しています。これは、日本のアフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development: TICAD)の枠組みと同様、アフリカとの関係強化を目的としたものです。特にタンザニアやエチオピアといった特定の国々で、日本とインドが連携を強化すれば、その連携が三角協力へと発展し、多大な効果を発揮するでしょう。

もちろん、こうした協力を成功させるには、具体的で焦点を絞った取り組みが不可欠です。このような観点から、日本の開発協力は地域を超えた知識の共有を促進する役割を果たすことができると言えます。それによって各国が互いの経験から学び、地域間パートナーシップの強化につながるでしょう。

アデム:日本のODAがアジアで果たしてきた役割と同様の役割をアフリカでも果たすためには何が必要ですか?

ジェイン:重要なのは、アフリカ諸国の“吸収能力”です。開発協力とは単なる資金供与ではありません。各国がその資金を受け入れ、効果的に活用する能力を持たなければなりません。これはインフラ開発においては特に重要です。大規模なプロジェクトを計画、管理、実施するための制度的能力をアフリカ各国が備えている必要があります。豊富な資金があっても、制度的能力が脆弱であれば、効果は非常に限定されてしまうからです。したがって、開発協力では、資金供与と行政能力・制度的能力の構築に向けた取り組みを組み合わせて実施する必要があります。

日本のODAにとって、アフリカの重要性はますます高まっています。長年にわたり、日本はアフリカ大陸全体でインフラ開発をはじめとする開発協力を実施してきています。アフリカ諸国が開発協力の吸収・管理能力を高めていくにつれ、協力と投資を拡大する機会も一層増えていくでしょう。

日本はアジアで長年蓄積してきた経験を生かし、インフラや能力強化の支援だけでなく、各国が共通の課題に取り組むための地域横断的な学びを促進することで、有意義な貢献を果たすことができるでしょう。それは、アフリカ全体でより強靭かつ持続可能な開発の道筋を照らす一助となるはずです。

アデム:貴重なご見解をありがとうございました。今後の研究のさらなる進展を楽しみにしています。

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