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東アジアの国境を越えた高等教育への取り組み

2011.03.09

東アジア圏で広がる活発な教育交流の波

1980年代以降、東南アジア諸国では経済の急成長にともない、「アジア人」としての共通のアイデンティティが徐々に芽生えてきました。経済面では欧米諸国への依存から離れ域内貿易協力の促進に力が注がれてきましたが、教育にも同様の動きが見られます。高等教育への需要が高まるにつれ、政府や教育機関がさまざまな協力形態を模索し始め、今や多種多様な教育の国際交流が見られるようになりました。多くの学生や教員が交換留学を経験し、国際的共同学位プログラムも誕生しています。北東アジアでは、日本・中国・韓国の大学が一歩進んだ提携関係を結び、関係省庁はネットワークをアジア全体に広げようと余念がありません。JICA研究所の黒田一雄客員研究員(早稲田大学教授)と結城貴子研究員がまとめたポリシーブリーフによれば、日本の大学と交換留学協定を結んでいるアジア諸国の大学は1981年には57校でしたが、2006年には2,948校に急増しています。このような現状や、東アジアにおける高等教育の地域化をめぐる政策議論が活発化していることからも、こうした全アジア的な現象はさらなる拡大傾向にあるといえるでしょう。

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JICA研究所の結城貴子研究員 (左) と SEAMEO RIHEDの Chantavit Sujatanond博士

最新の研究結果の共有、そして主要専門家たちとの議論

黒田客員研究員と結城研究員のチームは、国際交流プログラムの傾向と効果、高等教育制度の発展に果たす役割や地域統合をいかに推進するかなどといった点を調査するプロジェクトを進めています。2011年2月23~24日、東南アジアの主要高等教育関連機関がひしめき「アジアの教育の中心」とも称されるバンコクで開催されたワークショップにおいて、これまでの調査の途中結果を発表しました。このワークショップはJICAが東南アジア文部大臣機構・高等教育開発地域センター(SEAMEO RIHED)と共催したもので、各国政府や援助機関、ユネスコのバンコク事務所など国際機関の職員や、高等教育専門家などおよそ50人が出席しました。

ワークショップは「東アジアの地域統合、労働市場と人的資本形成」と題され、3部構成で行われました。第1部では、JICA研究所チームが東アジア圏内の主要大学300校を対象に行った大学の国際化・国際的共同学位プログラムに関する調査の分析に焦点を当てました。黒田客員研究員と結城研究員が、高等教育の国際協力に熱心に取り組んでいる大学はおしなべて、国際交流プログラムが域内の絆を強化し経済発展を後押しする潜在力を秘めていることを認識しその重要性をきちんと把握している状況を紹介。参加者からは、このテーマに関するしっかりとした調査は大変貴重であり大きな価値があると称える声が上がると同時に、教育の質を向上させるための域内協力こそ重要であるという意見が出されました。

第2部では、JICA研究所の研究協力者である吉田和浩広島大学教授と教育専門家の幸田佳子氏が発表をおこない、1990年代初頭にJICAが始めたマレーシア人工学部生の日本の大学への留学支援事業について説明しました。吉田教授は、3期にわたった日本の高等教育基金借款事業(HELP)の特徴を説明し、受け入れ側の日本の大学がこの経験を独自の留学プログラムに応用するなど、関係諸国の組織ガバナンスに与えた影響についても報告しました。一方の幸田氏の発表では、HELPの第2期借款(2年間の現地教育と3年間の日本留学を組み合わせて学位取得を目指すツイニング・プログラム)とマレーシア政府の東方政策による留学プログラム(4年間の海外留学)を比較することで、両事業の成果や卒業生の進路の違いが明確にされました。留学経験者のうちかなりの人数が日本企業に就職していることから、両事業とも工学分野での人材育成という目的を達成していると結論づけました。

ワークショップ2日目には、ユネスコのアジア太平洋地域教育局Gwang-Jo Kim局長やSEAMEO RIHEDのSupachai Yavaprabhas所長代行ら東アジアの高等教育界におけるリーダー的な専門家たちが、国際開発と地域協力に関する各自の活動と政策について論じました。最後のセッションでは、地域協力の拡充のために北東アジア3か国を巻き込む必要性を指摘する声や、提携校の研究の質を保つためにアセスメントのメカニズム作りが必要であるという意見が出され、共通言語として英語を使用するべきか、それとも学生たちに滞在先国の言語の習得を奨励すべきか、といった点についても活発に意見がかわされました。

高等教育分野における日本の貢献:これから

黒田客員研究員は、東アジアおよびアジア太平洋地域において高等教育協力の枠組み作りに向けた動きが一層活発になりつつあり、このような分野こそ日本の貢献が求められているといいます。 「過去には援助する側・される側という関係だったが、アジア各国大学の研究の質が高まった今では対等なパートナーとして付き合えるようになってきた。シンガポールの大学の中には日本の大学をおさえてランク上位に食い込んでいるところもあるのはよく知られている。日本はこの枠組み作りの流れを主導し、交流の場や高等教育という地域にとっての公共財をつくるための基礎を築くべきだ。実現できればインパクトが大きいし、日本にとっても有意義だ。」と述べています。

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JICA研究所客員研究員 -早稲田大学教授 黒田一雄氏 (右)

今回のワークショップを振り返って結城研究員は、「私たちの研究に対して、素晴らしいゲストの方々から貴重な意見を寄せていただき大変刺激になった。地域の高等教育国際交流の活発な動きを組み込んで今後の分析を進めたい。」と話しています。

JICA研究所のチームはこのテーマに関するワーキングペーパーを鋭意執筆中で、今回のワークショップで得られたフィードバックやコメントを盛り込んだ完成版を年内に発表する予定です。

関連研究領域:援助戦略

関連研究プロジェクト:東アジアの地域統合、労働市場と人的資本形成

ムービー・コメンタリー

Dr. Morshidi Sirat
Deputy Director General of Higher Education, Dept of Higher Education, Ministry of Higher of Education,Malaysia

Dr. Chantavit Sujatanond
Special Advisor, SEAMEO Regional Centre for Higher Education and Development, Thailand

問い合わせ先

JICA研究所企画課
TEL: 03-3269-2357  FAX: 03-3269-2054

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