紛争後の土地・不動産問題に関する新プロジェクトがスタート:平和構築における人々の生活に着目

2011.10.03

複雑に絡み合う紛争と土地・不動産問題

人々の平穏な暮らしを突然かき乱し、無秩序の世界をもたらす紛争。土地・不動産もまた、その大きな影響を免れることはできません。人々は安全な土地へ逃れ一時的に避難生活を強いられますが、やがては元の居住地へ帰還します。紛争下ではこのような突発的かつ集団的な強制移住が度々発生し、また権力を持つグループが不当に領土を略奪することも多々あります。こうした混乱と破壊の中で土地の境界線は幾度となく書き換えられ、その所有権は不安定化していくのです。

人々の生活は(特に途上国において)居住する土地に依存しています。一方で土地は、国家の経済発展の基盤となる農業や工業、あるいは徴税のために不可欠なものです。同時に、紛争後でも土地をめぐる争いが新たな暴力を生む危険性をはらんでいます。そのため新たに成立した政府は通常、紛争後ただちに国内秩序を安定させ、国家領土を平定する政策を推し進めます。しかしながら、実際にこれらの政策(または政府による介入)が人々の暮らしを向上させ、ひいては平和構築の実現に効果をもたらすのかどうかは一概に言えません。

この問題を検証するため、今年7月、JICA研究所の武内進一上席研究員が率いる研究チームは「紛争後の土地・不動産問題—国家建設と経済発展の視点から」という新たな研究プロジェクトを立ち上げました。研究チームはアフリカ、アジア、ヨーロッパ、南米の8か国の土地・不動産問題を検証する予定です。この種の研究において、国ごとの事例分析は過去に存在しますが、国家間の比較検証や地域間分析はほとんど前例がありません。本研究では、様々な国の事例を調査し、それぞれの国・地域の特質や異同を明らかにすることを目指しています。

JICAのような援助機関は農業生産・環境管理、またはインフラ整備などの援助プロジェクトを実施する際、常に土地・不動産問題に直面します。武内研究員は、「土地・不動産問題の詳細な分析を踏まえて政策提言を導く作業を通じて、その国や地域を理解するために必要な(特性や社会構造などの)基本情報を集めることができる。そこで得られた知見は、その地域で援助事業を実施するときに大変貴重になる。」と研究の意義を説明します。

双子国ルワンダとブルンジの事例

武内研究員は8月末から9月初頭にかけ、この研究プロジェクト初となる現地調査を実施し、ルワンダで土地登記政策の進捗を確認するとともに、ブルンジでは研究に必要なデータを収集しました。中央アフリカの隣国同士であるこの二国は、その地形や農業中心の経済構造、民族構成、そして複雑な民族対立による紛争の歴史などの類似性から、しばしば「双子国」と呼ばれてきました。しかし紛争後、各国は異なる政治制度を採用し、土地問題をめぐる状況もそれぞれ異なった様相を呈しています。

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航空写真を利用して土地区画の所有者を確認する調査員(ルワンダ)

ルワンダ:
武内研究員によると、ルワンダにおける土地問題の主因として、社会的背景が重要です。近年人口が急増し人口密度が日本並みのルワンダでは、伝統的に一夫多妻制が認められており、土地は全ての男子に分割・相続されることになっています。また最近では女性にも土地の相続が法律的に認められるようになり、問題はより複雑化しています。

さらに、過去半世紀に度々起こった紛争に起因する主要エスニック集団の強制移住が状況を悪化させました。1994年の紛争終結後100万人近くのツチ難民が帰還しましたが、以前住んでいた土地は既に他の人たちの手に渡っているという状況でした。そのため政府は1996年に帰還民が居住する区画を半分に分割し、前居住者と現居住者(帰還民)双方の所有権を認めるという措置を講じて土地問題の解決を図りました。

その後2009年よりルワンダ政府は土地登記政策の実施を開始し、全ての土地の区画一つ一つを細かく測量した上で、場所、面積、所有者などをデータとして登録する作業を進めています。ルワンダにとってこの土地登記は、効率的な土地活用や投資活動の促進につながるだろうと武内研究員は分析します。また、個人の土地所有権を公的に認めることで、土地紛争の解決も促進させる意図があります。

ルワンダ国民は今回の土地登記政策について、概ね好意的な反応を示していると武内研究員は説明します。しかし、その効果を見極めるにはさらなる時間と検証が必要です。今の国家の安定は現政権の強い統治力によるところが大きく、ひとたびその政治秩序が崩れると土地問題に対する国民の不満が噴出する恐れがあるとして、「(土地登記法の制定を)万能薬とは考えないほうが良い」と指摘しています。

ブルンジ:
ブルンジでもルワンダ同様、民族紛争や大量虐殺後の度重なる強制移住が原因で、土地所有権をめぐる争いが多発しています。ブルンジでは1970年代に大量殺戮が発生し、多数派エスニック集団のフツが多数タンザニアへ逃亡しました。その後1990年代初頭に内戦状態となり、今度は逆に少数派のツチがフツの隣人たちによって居住地を追われるという事態になりました。2000年の和平合意成立後は、政府や議会、軍や警察など国家権力機構のポストの数をエスニック集団ごとに分け合うなど、権力分有政策を進めてきました。

紛争終結後、80万に上るフツ難民が以前自分たちが住んでいた土地に戻ろうと帰還しましたが、ルワンダと同様に、多くの場合、そこにはすでに別の人々が定住していました。政府は土地所有をめぐる争いについて、現居住者を追い出さず、双方の話し合いによる解決を促す、という姿勢をとっています。

土地権利証書受け取りのため署名するルワンダの女性

この民族融和的政策は国民の間に広く浸透しているようだということですが、この点についても現時点で結論を導き出すのは尚早であり、さらなる調査が必要だと武内研究員は述べています。

援助潮流に一石を投じる

武内研究員は、このプロジェクトが国際援助潮流における新たな視点となれば、と語ります。国際的な平和構築の研究潮流としては、これまでどちらかといえば、国家建設の議論に代表されるように、制度構築に関する論点に主眼が置かれてきました。言い換えれば、人々の生活をどのように支えていくのかという点については、平和構築の文脈で十分に議論されてこなかったわけです。武内研究員は、「人々の暮らしを向上させることは平和構築を進める上で不可欠であり、こうした人々の生計に関わる議論を平和構築の文脈で深めることが重要だ。」と訴えています。

開催情報

開催日時:2011年8月14日(日)~2011年9月11日(日)
開催場所:ルワンダ、ブルンジ

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