JICA研究所、ブルッキングス研究所とスケールアップについての共同研究を開始

2011.09.06

開発援助における試験的プログラムや小規模の成功事業の規模拡大や継続実施を図り、その効果をより多くの人々へ波及させていこうとする取り組みである、スケールアップ。これについては長く開発援助の世界で議論されてきましたが、昨今改めて注目を集めています。

背景には、ミレニアム開発目標の達成期限が近づく中、国際援助コミュニティが当初期待していたほどの援助効果を上げられておらず、新たな対応を迫られているという状況があります。しかし、スケールアップに関しこれまでの好例から得られたデータや知見が、なかなか学術的に文献としては示されていませんでした。

そこでJICA研究所とブルッキングス研究所は、スケールアップについて共同研究の実施を決定しました。今年6月にJICA、ブルッキングス研究所、韓国国際協力団(KOICA)の三者が発表した共同研究報告書「Catalyzing Development」の一章でもスケールアップは取り上げられていますが、今回の試みは、今後のさらなる検証を通してスケールアップの知見を深め、援助政策形成に資する分析や開発実務者の実践に役立つ提言を行っていくことを目的としています。研究結果は、2012年中に発表される予定です。

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細野昭雄研究所所長(中央)と 本田 俊一郎リサーチ・アソシエイト(左から2番目)

プロジェクトでは、この分野に精通する研究者・実務者が複数参加して、スケールアップの多様なアプローチについて、主に民間部門、公共部門、開発援助機関改革の3つの観点から研究を進めます。研究メンバーはJICA研究所の細野昭雄所長及び本田 俊一郎リサーチ・アソシエイト(RA)、ブルッキングス研究所からはHomi Kharas上席研究員、Johannes Linn上席研究員などです。細野所長と本田RAはそれぞれ、「南南協力・三角協力による国境を越えたスケールアップ」と「スケールアップ・プロセスにおける公的セクターの能力開発」というテーマで、具体的な事例を使った分析を行っていくこととしています。

専門家は、同じ被援助国・地域において複数のドナーが試験プロジェクトを各自立ち上げていることが頻繁にある現状をあげ、ドナー間での調整が十分になされていないと被援助国側での混乱や援助事業の重複を招き、さらには個々の取り組みの効果を損なう可能性があると指摘します。スケールアップという概念のもと、ドナーと被援助国が効果的な連携を図ることにより、効率的で無駄のない、より包括的なプロジェクトが計画・実施されることが期待されています。 

7月28日にワシントンD.C.のブルッキングス研究所で開かれた研究プロジェクト立ち上げのための会合において、細野所長は、研究の始動にあたり、「(ODA)予算が増えない中でより開発効果を高めるには、シナジー効果を生むスケールアップの道筋について検証することが一層重要になっていく。」と述べました。国際援助コミュニティが今年11月のハイレベル会合へ向け準備に追われている今、効果的な開発援助手法の研究意義はますます高まっていると細野所長は言います。また、スケールアップを援助の基本方針の一つとして掲げるJICAにとっても非常に重要な課題であると強調しました。

JICA研究所とブルッキングス研究所は、本年末を目標に研究論文の初稿を仕上げ、来年初頭の執筆者ワークショップで各論文の検討と意見交換をおこなう予定です。

開催情報

開催日時:2011年7月28日(木)
開催場所:米国、ワシントン

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