JICA研究所と世界銀行、「紛争・安全保障・開発」をテーマに合同セミナーを開催

2011.10.13

1990年代初頭にピークを迎えた内紛や紛争は、その後減少傾向にあります。しかし2003年から現在までに起きた紛争の約9割は過去の紛争の再燃であり、さらに、政治情勢に起因する暴力、テロリズム、暴力組織による暴行などの暴力は増加を続けています。世界中でいまだ150万人もの人々が、日々の生活を暴力によりおびやかされているのです(世界銀行データ)。

JICA研究所と世界銀行は9月27日、紛争予防に関する合同セミナーを開催しました。本セミナーは、世銀が発表した世界開発報告書(WDR)2011の紹介と、JICA研究所の研究プロジェクト「アフリカにおける暴力的紛争の予防」の中間成果報告を目的として開かれました。

WDRは毎年、国際援助分野で関心の高い議題を取り上げてきましたが、2011年版のテーマは脆弱性と暴力についてです。JICAは当初より、過去の援助実施経験に基づく知識の共有や、東京やジャカルタでの専門家会合の開催、そして参考論文の提供などを通して、同報告書の制作過程に深く関与してきました。セミナー当日、会場には外交官をはじめ、国際援助機関職員、研究員、援助実務者、学生など、200名近い参加者が集まりました。

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アフリカの紛争予防について発表する峯陽一教授

第一部では、まず、WDR2011有識者諮問委員会委員を務めた大島賢三JICA副理事長(当時)が報告書に関するコメントとJICAの協力について述べました。続いて、WDR2011担当共同局長であるサラ・クリフ氏が、低い統治能力・法秩序の乱れ・腐敗の横行といった要素がある国家では内戦勃発の可能性が30%~45%程度高くなるなど、WDR2011が明らかにした衝撃的な調査結果に触れながら、同報告書の主な論点と政策提言について説明しました。さらにクリフ氏は、繰り返される暴力の連鎖を断ち切るために、正統性のある統治機構の強化とともに「市民の安全保障、司法制度、雇用」を確保することが重要であると強調しました。一方、政策提言の実行について、世銀がケニアに新設した紛争・安全保障・開発センター(Global Center for Conflict, Security, and Development)のステファン・ンデグワ氏が、組織内における紛争に配慮した姿勢の促進、他のドナー・国連機関との連携強化、雇用創出支援など、世銀の紛争解決に向けた新戦略を紹介しました。

その後、英国オックスフォード大学CRISE(不平等・人間の安全保障・エスニシティ研究センター)所長のフランシス・スチュワート教授、武内進一JICA研究所上席研究員、東大作東京大学准教授 の3名がそれぞれの見解を述べ、次のセッションへと移りました。JICA研究所研究チームによる第二部では、研究代表者の峯陽一客員研究員(同志社大学教授)、ベルギーのルーヴェン大学CRPD(平和と開発研究センター)所長アーニム・ランガー氏、CRISEのスチュワート教授が登壇しました。

峯教授はプロジェクトの概要を説明した後、アフリカにおける紛争予防メカニズムを分析する要素の一つである政治制度について解説しました。政治制度の形態は合意形成型や多数決による意思決定方法など多岐に渡り、研究チームはそれぞれの強みと弱みについて詳しく調査したということです。また、ランガー氏はアフリカ7カ国で実施した意識調査の分析結果を公表し、水平的不平等と紛争の相互関係を明らかにしました。最後にスチュワート教授は、水平的不平等の概念を説明し、それらが紛争発生にどのような影響を与えるのかに言及した後、紛争予防に効果的な政策を、さまざまな事例を用いて紹介しました。

発表後は世銀のンデグワ氏、UNDP東京事務所丹羽敏之臨時代表、そして遠藤貢東京大学教授からコメントが寄せられ、その後の質疑応答においても活発な意見交換がおこなわれました。

ムービー・コメンタリー

ステファン・ンデグワ
the WDR core team member, World Bank

アーニム・ランガー
Director, The Centre for Research on Peace and Development, University of Leuven, Belgium

フランシス・スチュワート
Director, Centre for Research on Inequality, Human Security and Ethnicity at Oxford University

峯 陽一
JICA研究所客員研究員

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