21世紀型の『質の高い成長』を考える:フランスAFDと英国IDSとの共同研究成果報告イベントを開催

2015.02.06

20世紀を通じ今日まで長い間、「成長」とは経済成長を指し、経済の活動規模が増大・拡張していくことが目的とされ、その成果はGDPなどにより測られてきました。しかし昨今、国同士や国内の格差拡大、金融危機の発生、気候変動を取り巻く問題が生じており、「成長」の在り方を再考すべき時期に差し掛かっています。21世紀型の「成長」の姿が求められている今、「質の高い成長」は学術界のみならず政策決定においても注目を集めているテーマです。

このような背景を踏まえ、JICA研究所は、2012年よりフランス開発庁(AFD)と英国サセックス大学開発学研究所(IDS)とともに、「質の高い成長」に関する共同研究を開始しました。21世紀における望ましい開発と成長とは何か、その実現のためどのような政策やアプローチが有効か、また成長の度合いをどのように測定すべきか。本研究の狙いは、このような正解のない問いを学術的に追究するものです。本研究には加藤宏JICA理事が編者の一人として参加し、JICAからは細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー、島田剛主任研究員、カマル・ラミチャネ筑波大学教育開発国際協力研究センター(CRICED)准教授(JICA研究所招聘研究員)、敦賀一平JICA米国事務所所員(元研究所企画課職員)の4名が論文執筆を行いました。今回のイベントは、研究成果をまとめたレポートの発刊を記念して、AFDのパリ本部内の会場において開催されました。当日は、AFD、フランス外務省やパリに本部があるOECDなどから約70名が参加しました。

イベントには、田中明彦JICA理事長、アン・ポガムAFD総裁、メリッサ・リーチIDS所長に加え、研究活動に貢献した5名の著者がパネリストとして登壇しました。まず3機関の長が、それぞれの機関の「質の高い成長」に関する考え方について発表しました。田中理事長は、現在日本政府が改訂中の開発協力大綱を踏まえ、JICAは今後も「包摂性」「強靭(じん)性」「環境の持続可能性」の3要素に配慮した「質の高い成長」を重視する立場を、JICA事業の成果に触れつつ表明しました。ポガムAFD総裁は、2015年12月にパリで開催予定のCOP21に言及し、気候変動への国際的な対応や社会・環境への影響への配慮は不可欠であると述べました。またリーチ IDS所長は、格差是正、環境持続性の促進、包摂性への配慮など「質の高い成長」はIDSの組織戦略に合致していると強調しました。

次に、著者による研究成果の報告が行われました。現在の成長スピードでは貧困削減目標の達成は困難であるという見通しや、成長を測定する分析枠組みが紹介され、「質の高い成長」の目指すべき方向性が語られました。その後の「質の高い成長」を実現するためのアプローチに関するセッションでは、加藤理事がモデレーターを務め、細野シニア・リサーチ・アドバイザーがチリやタイのJICAによる技術協力を事例に、「質の高い成長」の実現のためには、「包摂性」や「持続性」という視点を重視しつつ産業構造転換を図るべきと述べました。

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研究成果報告の様子

イベントを通じて、「質の高い成長」を実現するための政策やアプローチは、各国が直面する課題やコンテクストに併せて国ごとに検討されるべきであり、行政機関、研究機関、民間企業という組織の壁を超えた包括的なアプローチが重要であるとの認識が共有されました。加藤理事は、JICAやAFDなどの開発機関は、相手国政府主体の政策策定と実施を重視し支援することが鍵であると述べ、セッションを締めくくりました。

開催情報

開催日時:2015年1月26日(月)
開催場所:フランス、パリ

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