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ISA Asia Pacific Region Conference(世界国際関係学会アジア・太平洋地域大会)で人間の安全保障に関する新プロジェクトを構想

2019.08.16

2019年7月4~6日の3日間にわたり、シンガポールの南洋工科大学で「ISA Asia Pacific Region Conference (世界国際関係学会アジア・太平洋地域大会)2019」が開催されました。6日には、ラウンドテーブル「SDGs時代のASEAN内外における人間の安全保障の進展—概念から実践への橋渡し—」が実施され、JICA研究所の武藤亜子主任研究員、峯陽一客員研究員(同志社大学教授)、サライヴァ・ルイ研究員と、石川幸子JICA国際協力専門員が参加しました。

ラウンドテーブル開催前の打ち合わせの様子。(左から)武藤亜子主任研究員、峯陽一客員研究員、石川幸子JICA国際協力専門員

まず、同ラウンドテーブルの議長を務めた石川国際協力専門員が開催趣旨を説明した後、峯客員研究員が、2013年10月~2019年3月まで実施したJICA研究所の研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障の実践」の背景と成果の概要を発表。第1フェーズでは東アジア地域における人間の安全保障の概念に焦点を当て、第2フェーズでは自然災害や人災など、人間の安全保障に対する脅威に対応する国際・域内協力を中心に取り上げたことを報告しました。

加えて石川国際協力専門員が、第2フェーズの研究成果をまとめた書籍『Human Security and Cross-Border Cooperation in East Asia』を紹介。人間の安全保障への重大な脅威となったフィリピン・ミンダナオの紛争を取り上げた自筆の章「The Protracted Crisis in Mindanao: Japan’s Cooperation and Human Security」では、その和平プロセスにおける日本の貢献を描いたことを述べました。

続いて武藤主任研究員が、JICA研究所で検討中の人間の安全保障に関する研究プロジェクトのコンセプトを発表。人間の安全保障の文脈において、これまでの研究では国家による「上からの保護」の重要性が主に分析されてきたのに対し、この新プロジェクトでは、人々の「下からの能力強化(エンパワーメント)」と「尊厳」に関連したトピックが焦点となります。武藤主任研究員は新プロジェクトにおける各ケーススタディーについても言及。人間の安全保障に携わるローカルアクターの役割を明確に示しつつ、東南アジアにおける能力強化(エンパワーメント)のさまざまな実践に注目し、取り残された人々に焦点を当てると述べました。

この文脈においてサライヴァ研究員は、「能力強化(エンパワーメント)」や「尊厳」といった概念が西洋の社会組織モデルに基づくものなのか、また、政策の実践や概念的な解釈が政治的、社会経済的、文化的な文脈によって決まるものなのか、問題提起しました。その上で、東南アジアにおける人間の安全保障という文脈で「能力強化(エンパワーメント)」や「尊厳」の意味を探りながらこれらの問いに応えることが、地域の開発実務者や平和構築の担い手を支えていくような研究課題になり得ると述べました。

上記のサライヴァ研究員の問題提起について、参加者からも意見があがりました。英国、オーストリア、トルコ、マレーシア、シンガポールなどから集まった研究者も積極的に議論に加わり、さらにJICA研究所のポリシー・ノート「人間の安全保障の再考—東アジア11か国の研究からの提言—」にもフィードバックがありました。このような学術的交流を通じ、人間の安全保障に関する今後のプロジェクトの基盤となる概念的枠組みの構築が進みました。

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