jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」第2回執筆者会合を開催

2019.10.07

2019年9月25日、JICA研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」の第2回執筆者会合がJICA研究所で開かれました。

今回の会合では、本研究プロジェクトで扱う各事例研究について、執筆者からそれぞれの紛争の背景と要因、主要な平和構築アクター、持続的な平和の実現に向けた課題が発表されました。それに対し、ノルウェー国際問題研究所(Norwegian Institute of International Affairs: NUPI)のセドリック・デ・コニング上級研究員、大阪大学の松野明久教授、防衛大学の武田康弘教授の3人のアドバイザーがフィードバックを行いました。

まず、JICAの谷口美代子国際協力専門員(平和構築)が、フィリピン・ミンダナオの事例を発表。本研究では、インフラ、社会経済開発、コミュニティー開発、ガバナンスの分野で開発協力を実施するJICAといった外部の平和構築アクターの役割について、特に和平が進展したアキノⅢ政権以降の支援動向を踏まえて国やローカルレベルで分析しています。特に、国家とバンサモロ開発庁(Bangsamoro Development Agency: BDA)や市民社会をはじめとするミンダナオのさまざまなレベルの国内関係者間の取り組みと日本・JICA支援の役割について検証する予定です。これにより、ローカルに焦点を当てた従来とは異なる平和構築アプローチを模索します。

執筆者がそれぞれの研究事例につき、紛争の背景と要因などについて発表

ジェトロ・アジア経済研究所(IDE-JETRO)の今井宏平研究員は、トルコのシリア紛争に対する対応への理解を深めるため、トルコと、シリアにおける少数民族であるトルクメン人の関係性について発表しました。本研究では、両者の関係性の質に着目し、それが紛争影響下のシリアでどのように草の根の平和構築に貢献するかを検証します。

パリ東大学のリナ・ペナゴス氏は、コロンビアにおける既存の平和構築枠組み内での状況適応型の活動事例について発表しました。コロンビアの平和構築を理解する上では、コミュニティーリーダー、政府機関、二国間援助機関、カトリック教会などの力学を理解することが必要です。紛争によって生み出された不信と汚職といった制度的な脆弱性がある中で社会的な連帯を再構築する際、どのように状況適応型の平和構築を用いることができるのかを検証し、平和構築アクターは、非伝統的なアクターが作り出した「紛争下の秩序」の下でどの程度安定化を支援できるかを明らかにします。

JICA研究所の武藤亜子主任研究員は、シリア危機に対する国際社会の対応に関する事例を紹介。本研究では、シリア危機における人道支援および国際調停プロセスについて、特に、民主的な国家再建のために反政府勢力に対して支援するOECD/DAC諸国などの活動と、主権を尊重する国連との関係性に焦点を当てています。武藤主任研究員は、必ずしも全てのシリア人が同国での持続的な平和に向けた複雑な道筋に参加しているわけではないことを強調し、今後の研究を通じシリアにおける包摂的な平和構築の在り方を探求していく予定だと報告しました。

担当する事例について発表したJICA研究所の武藤亜子主任研究員(右端)とサライヴァ・ルイ研究員(中央)

大阪大学の中内政貴准教授は、モルドバで長引く“凍結された紛争(Frozen Conflict)”に焦点を当てました。本研究では、トランスニストリア問題の背景を説明し、なぜ暴力紛争にまで発展しないのか明らかにしようとしています。中内准教授は、この紛争に対するロシアやEUからの国際的な介入の影響について掘り下げ、トランスニストリアの安定化や同地域での他の紛争における平和構築ドナーの役割を検証します。

防衛大学の立山良司名誉教授は、パレスチナの構造的非対称性(Structural Asymmetry)下での国際的な介入に焦点を当てます。本研究では、パレスチナ西岸のヘブロン暫定国際監視団(Temporary International Presence in Hebron:TIPH)とガザ地区のガザ復興メカニズム(Gaza Reconstruction Mechanism:GRM)の事例を取り上げます。立山名誉教授は、この2つの介入はパレスチナのそれぞれの文脈を反映して実施されたものであり、同地域における平和への道を理解するために有用だろうと述べました。

JICA研究所のサライヴァ・ルイ研究員は、モザンビークにおける発展的平和構築アプローチを例に発表。本研究では、2013年のモザンビーク政府とモザンビーク民族抵抗運動(RENAMO)間の武力対立の再発と、2017年のカーボ・デルガト州におけるイスラム反乱組織の台頭に焦点を当てています。どちらの事例も、モザンビークに持続的な平和が実現していないこと、また、いまだ残る禍根を取り除き、国として安定するにはさらなる方策が求められることを示しています。サライヴァ研究員は、新たな武装解除・動員解除・再統合(DDR)プログラム、現段階での地方分権化プロセスの変化、近年の同国における平和構築イニシアティブの影響と効果について研究しています。

最後に、デ・コニング上級研究員は、状況適応型の平和構築の実践例として、クリスチャン・エイド・アイルランドのAdaptive Development、サセックス大学のSystemic Action Research、そして国連平和維持活動におけるComprehensive Performance Assessment Systemを挙げ、状況に応じた考え方の重要性、状況対応型のプロセスやツール、業績の評価、成果の確認について紹介しました。

本会合で得た知見を踏まえ、今後、執筆者は各地で現地調査を行い、研究を進めていく予定です。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ