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複合的危機下の世界における、政治・経済・人間の安全保障ー国際大学・JICA緒方研究所共催ナレッジフォーラム

2022.12.27

2022年12月16日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、国際大学との共催により、ナレッジフォーラム 「『複合的危機における安全保障と開発協力』—ウクライナ問題の衝撃と政治・経済・人間の安全保障を考える—」をウェビナー形式で開催しました。

開会にあたり、JICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザーが、「新型コロナウイルス感染拡大による社会・経済への影響が残り、気候変動などの従来の課題への対応の遅れが懸念される中、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。複合的危機の下でのレジリエンス強化・安定化の方策に関し、国家の安全保障、経済の安全保障、そして人間の安全保障の視点から、専門家の方々にご議論いただく」と開会の辞を述べました。

ナレッジフォーラムのパネリスト

JICA緒方研究所の萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー

ウクライナ情勢は歴史の韻を踏むか

パネリストからの発表のセッションでは、山口昇特別客員研究員(国際大学教授)による、国家の安全保障の視点からの発表が行われました。山口教授は、過去の日本の戦間期の経緯(第1次世界大戦終結から第2次世界大戦勃発まで)と現在のウクライナの状況を比較しながら、「ロシアの当初の目論見には無理があり、政治と軍事の関係があまり健全でなかった可能性がある。今はまだポイント・オブ・ノー・リターン(後戻りできない段階)ではないだろう。ロシアにとってはもう一度考え直すチャンスがあるのではないか」と述べました。また、ウクライナ善戦の要因として、ゼレンスキー大統領のリーダーシップや、スマート兵器の導入、NATO諸国の人・物両面における軍事的支援を挙げました。

国際大学の山口昇教授(JICA緒方研究所特別客員研究員)

ウクライナ情勢における中国のポジション

JICA緒方研究所の高原明生研究所長は、国際政治(現代中国政治)の視点からウクライナ情勢に関する中国のポジションについて発表を行いました。2022年2月の侵攻直後ロシアを支持する旨を伝えていた中国が9月になって「疑問と懸念」を呈した背景として、ウクライナの反転攻勢、党大会を前にした中国国内の異論に対する政治的な駆け引き、ゼロコロナ政策による自国経済の苦境打破を意図した欧州等への配慮等が挙げられました。

JICA緒方研究所の高原明生研究所長

ウクライナ情勢をうけての国家の役割の変容

国際大学の田所昌幸特任教授は、国際経済・経済安全保障の視点からの発表を行いました。田所教授は、「ウクライナ侵攻により、市場中心のグローバリゼーションの時代から、国際経済で国家の役割の大きな時代への変化が決定的になった。効率性や成長よりも、安定性や強靱性が強く求められる時代になっていく」と述べ、「トルコやインド等、グローバルサウス諸国はロシアに対する経済制裁に関し、微妙なポジションを取っている。互いに信頼できる相手を求め、各国は経済・政治の関係再構築を行っていくだろうが、複雑な外交的やり取りが各国間で続くだろう」と指摘しました。

国際大学の田所昌幸特任教授

今日の人間の安全保障と開発協力

最後にJICA緒方研究所の牧野耕司副所長が、人間の安全保障・開発協力の視点から発表を行いました。牧野副所長は、最も脆弱な地域であるアフリカでは、コロナ禍により一人当たりGDPが10年前の水準に逆戻りし、ウクライナ侵攻に端を発する食糧危機にも直面していると指摘。「人間の安全保障は、様々な脅威に対してレジリエントな社会をつくることにより、人々の命、暮らし、尊厳を守る考え方」と述べました。その上で、アフリカやウクライナに対して現在JICAが行っている開発協力の動向を紹介しました。

JICA緒方研究所の牧野耕司副所長

複合的危機下の世界における、政治・経済・人間の安全保障

モデレーターを務める山口特別客員研究員からの「中国の台湾に対する野心を懸念する向きがある。ウクライナ侵攻を目の当たりにした中国が同様の挙に出る可能性は」との問いに対し、高原所長は、「そのおそれは当面はないだろう。習近平主席にとっての現在の最優先事項は自身の政権と一党支配体制の維持であり、台湾侵攻は体制維持にとってプラスよりマイナスが大きいと判断していると考えられる」と分析しました。

また、「ロシアへの経済制裁が世界に対してコントロールできないような負の影響を与えないか」との問いに関し、田所特任教授は、「ロシアはエネルギー供給国としての役割が大きい。冬季にヨーロッパに対するエネルギーの供給が止まれば、ヨーロッパの国内秩序の混乱や、中東への依存が増すことで中東諸国に対する外交的グリップが弱くなることが考えられる。最も不確実で潜在的なリスクが大きいのは国際金融の不安定化に発展することであろう。他方で、化石燃料からグリーンエネルギーへの転換など、リスクをチャンスと捉えることも大事だ」と指摘しました。

続いて、「ウクライナで不発弾に関する協力はできないか」という問いに関し、牧野副所長は、「不発弾や地雷への対応は非常に重要。JICAが過去に地雷対策を支援したカンボジアの機関は、今では他国を支援するまでになっていて今後協調して支援する予定。越冬など現在の緊急支援に加え、和平後、復興や難民の帰還等、中長期的対応において国際協力の役割は重要」と述べました。

ウェビナー参加者からは、ウクライナにおける危機がグローバルに拡大するリスク、国連の役割、アフリカにおける中国の援助、自国優先主義の風潮等、様々な質問が寄せられました。

ナレッジフォーラムにおける発表や議論をふまえ、山口特別客員研究員は、「国際大学とJICAは、日本が国際社会にどのように関わっていくべきかという点について、学術研究と実務の面から取り組み、また相互に協力してきたが、今後もその協力を進めてまいりたい。」と閉会の辞を述べ、フォーラムを締めくくりました。

関連動画

国際大学・JICA緒方研究所共催ナレッジフォーラム 複合的危機における安全保障と開発協力—ウクライナ問題の衝撃と政治・経済・人間の安全保障を考える—

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