国連日本政府代表部主催セミナーで武藤専任研究員らが適応的平和構築を発表

2023.11.24

2023年6月26日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の武藤亜子専任研究員は、ノルウェー国際問題研究所(Norwegian Institute of International Affairs: NUPI)のセドリック・デ・コニング教授と共に「Towards more Context-specific, Participatory, and Adaptive Approaches to Conflict Prevention and Sustaining Peace」と題したセミナーに参加しました。同セミナーは、国連日本政府代表部、エクアドルとノルウェー両政府代表部の共同提案により開催されたもので、国連安全保障理事会と平和構築委員会の双方から参加者が招かれました。

開会の辞を述べた石兼公博国連日本政府代表部特命全権大使兼常駐代表(左から2人目)

まず、石兼公博国連日本政府代表部特命全権大使兼常駐代表が開会の辞を述べたのち、2023年3月に発刊された書籍『Adaptive Peacebuilding : A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century』の筆頭編者であるデ・コニング教授が同書を紹介しました。デ・コニング教授は、適応的平和構築(Adaptive Peacebuilding)とは、武力紛争や気候変動のようなショックや逆境に対して複雑な社会システムはどう適応するか、という知見に基づく平和構築のアプローチだと説明。そしてこのアプローチでは、現地コミュニティや紛争影響下に置かれた人々を含む平和構築アクターが共に考え、学び、適応することを繰り返しながら、平和を持続させるプロセスの形成に積極的に関与するのが重要だと強調しました。また、社会システムの自己組織化の力をもとにして、平和が現地の文脈の中から生まれるよう、現地のアクターのニーズ、文化、社会・経済状況を重視していることにも言及しました。

続いて、同書の共同編者である武藤専任研究員が、コロンビア、モザンビーク、パレスチナ、シリア、東ティモールでのケーススタディー5件と平和構築に携わる主要国の平和構築アプローチに基づき、適応的平和構築を構成する文脈対応型・参加型のアプローチを紹介しました。武藤専任研究員は、5件ではそれぞれ異なるアプローチで文脈対応型・参加型の平和構築が実践されたと指摘。また、一連のケーススタディーを通じて、外部主導で事前設計型の平和構築アプローチよりも、適応的平和構築が有効だったことを示しました。

左から、JICA緒方研究所の武藤亜子専任研究員、ノルウェー国際問題研究所のセドリック・デ・コニング教授、国連政治・平和構築局のロズリン・アコンベ平和構築戦略・連携部長

次に、米国ニューヨーク大学国際協力センター(CIC)のユージーン・チェン危機予防・平和構築プログラム・ディレクターが書籍にコメントし、なぜ国連が適応的アプローチへと移行するのは難しいか、主な要因を2点示しました。1点目として、国連の業務が人道支援、開発支援、平和活動の間で縦割り化していること、2点目として、官僚主義的な構造と運営方針・慣行により、ひな形に従ったアプローチを標準とする組織文化があることを挙げました。

参加者は、適応的平和構築の概念の他、国連システムや構成機関が組織・部署の垣根を越えて連携し、適応的アプローチを通じて紛争の根本的な原因にいかに対処できるかなどについて議論しました。最後に、国連政治・平和構築局(Department of Political and Peacebuilding Affairs: DPPA)平和構築支援事務局(Peacebuilding Support Office: PBSO)のロズリン・アコンベ平和構築戦略・連携部長が閉会の辞を述べ、セミナーを締めくくりました。

本セミナーは、国連による紛争予防・平和維持をどう実効的にするか、ある一国の平和構築・紛争予防の取り組みに対し、国連の平和活動や機関、基金、プログラム、加盟国はどのように支援できるか、どうしたら紛争予防・平和構築支援をより文脈対応型、参加型、適応型にできるか、国連の安全保障理事会と平和構築委員会はそうした取り組みを促進するためにどんな役割を果たせるかについて考える機会となりました。

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